Top >> 妊娠と糖尿病 >>  糖質40%摂取時は動物性脂肪・たんぱく質摂取が妊娠糖尿病のリスクになる

糖質40%摂取時は動物性脂肪・たんぱく質摂取が妊娠糖尿病のリスクになる


妊娠糖尿病に関するちょっと興味深い論文を紹介します(2014年のもの)。

前向きコホート研究という、比較的信頼性の高い方法で大規模の集団について、妊婦さんの妊娠前の食事内容と妊娠糖尿病の発生について比較検討したものです。


論文に書かれていることは結論から言うと、この記事のタイトル通りで、

「妊娠前に糖質摂取量が低い女性が、動物性のたんぱく質や脂質を摂取した場合には妊娠糖尿病が発生しやすいが、植物性のたんぱく質や脂質を摂取していた場合には妊娠糖尿病の発生しやすさは一般集団と変わらない。」

というものです。

(ここでいう一般集団というのは糖質摂取量が60%前後の人々です。)


ということで、論文のタイトルと本文の書き方からすると、糖質制限するなら脂肪やたんぱく質は動物性のものから摂取するのではなくて、植物性のものから摂取する方が安全だよ、というニュアンスになってます。


ですが、良く読むと違います(笑)。


詳しくは以下に。


私の考察から読んでみたい場合は最後の段落だけをお読みください。





スポンサードリンク


最初に、妊娠糖尿病について説明します。


<妊娠糖尿病とは>

妊娠糖尿病というのは妊娠中だけに出現する糖尿病のような状態であり、妊娠中に初めて発見された場合を指します。

妊娠初期に随時血糖(空腹時ではなくてよいです)を計測し、高いときにはブドウ糖負荷試験をして診断します。

妊娠初期に陰性であった人も、妊娠中期(24~28週)にもう一度スクリーニングを行います。


妊娠糖尿病の方が何も対処しないで現代の食生活を続ける場合、妊娠中の体重増加と胎児の巨大化を招くことがあります。

そこで、妊娠糖尿病と診断された場合、食事指導が行われますが、一般的にはカロリー制限だけで糖質は60%以上摂取するように言われます(一般的な産婦人科・内科)。

残念ながら、この食餌療法では多くの方で妊娠糖尿病は改善しないので、さらに厳しいカロリー制限になることがあります。


それは間違った食事指導であると私は思います。

(このことに関しては後述)



<妊娠前に低糖質(総カロリーの40%前後)摂取で動物性のたんぱく質・脂質を主に取っている人は妊娠糖尿病になりやすい>

さて、論文紹介、タイトルは以下です。

Prepregnancy low-carbohydrate dietary pattern and risk of gestational diabetes mellitus: a prospective cohort study.
Bao W, Bowers K, Tobias DK, Olsen SF, Chavarro J, Vaag A, Kiely M, Zhang C.
Am J Clin Nutr. 2014 Jun;99(6):1378-84.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24717341

妊娠前の低糖質の食事パターンと妊娠糖尿病のリスク;前向きコホート研究


以下は要旨。

Google翻訳に私がちょっとだけ手を加えたものです。

---------------

バックグラウンド:
低炭水化物ダイエット(LCD)は、体重減少のために非常に普及している。
低炭水化物の食事パターンと妊娠糖尿病(GDM)のリスクとの間の関連性は未知のままである。

目的:
我々は、3つの妊娠低炭水化物の食事パターンとGDMのリスクとの関連を展望的に検討することを目指した。

実験デザイン:
看護師の健康調査IIに含まれている21,411の単子妊娠について、LCDスコアはを食品頻度のアンケートから計算し、検証しました、以下を含みます。
炭水化物、総タンパク質、および総脂肪の摂取量に基づく全体的なLCDスコア;
炭水化物、動物性タンパク質および動物性脂肪の摂取量に基づく動物のLCDスコア;
炭水化物、植物性タンパク質、および植物性脂肪の摂取量に基づく野菜のLCDスコア。
より高いスコアは、脂肪およびタンパク質のより高い摂取および炭水化物のより低い摂取を反映し、低炭水化物食パターンへのより密接な遵守を示しました。
RRおよび95%CIは、対数二項モデルを用いた一般化された推定式を用いて推定された。

結果:
我々は10年間のフォローアップ中に867件の妊娠糖尿病を記録した。最も低い四分位数との比較のためのGDMの多変数調整RR(95%CI)は、全般的なLCDスコア(P傾向= 0.03)については1.27(1.06,1.51)、動物のLCDスコアについては1.36(1.13,1.64) P-trend = 0.003)、野菜LCDスコア(P-trend = 0.08)については0.84(0.69,1.03)であった。
LCDスコアとGDMリスクとの間の関連性は、年齢、パリティ、糖尿病の家族歴、身体活動、または体重過剰状態によって有意に変化しなかった。

結論:
動物性食物源からのタンパク質および脂肪の高い妊娠中の低炭水化物の食事パターンは、GDMリスクと正の関連があるのに対し、植物性食物源からのタンパク質および脂肪の高い妊娠低炭水化物の食事パターンはリスクと関連していない。
低炭水化物の食事パターンに従う生殖年齢の女性は、GDMの危険性を最小限に抑えるために、タンパク質と脂肪の動物源ではなく野菜の消費を検討するかもしれません。

---------------

この記事のイントロに書いた通りに、

アンケート調査によって21411件の妊娠(単子)前の食事内容を検討し、分類した。
カロリー比で高糖質群、中糖質群、やや低糖質群、低糖質群に分け、それぞれの脂肪やたんぱく質摂取内容について検討した。
低糖質群の妊婦が動物性のたんぱく質や脂質を多く摂取した場合のみに妊娠糖尿病の発生リスクが高くなった。しかし植物性のたんぱく質や脂質を多く摂取した場合にはリスクは高くなかった。

というものです。

低糖質食の場合、動物性のたんぱく質や脂質を摂取するよりも植物性のたんぱく質や脂質を摂取する方が安全だよ、ということが言いたいみたいですね。


ですが、論文をよく読むと以下のテーブルが出てきます。


テーブル 40%.jpg

全体をカロリー比で高糖質群(58.8%)、中糖質群(51.8%)、やや低糖質群(47.3%)低糖質群(41.6%)と分けた、となってます。

動物性のたんぱく質や脂質を摂取するグループは糖質摂取量の多い少ないを58.8%、52.1%、47.8%、42.1%の4群に分けられてますし、

植物性のたんぱく質や脂質を摂取するグループも糖質摂取量の多い少ないを54.6%、50.6%、48.5%、46.0%の4群に分けられてます


つまりこれは「糖質41.6~46.0%程度の食事をした場合、動物性脂肪やたんぱく質を食べるよりも植物性脂肪やたんぱく質を食べる方が妊娠糖尿病になりにくかったよ」というお話です。

糖質41.6~46.0%の食事が糖質制限、あるいは低糖質食だと思っている人はいないと思うんですが。。。




<正しい糖質制限の宗田クリニックでは妊娠糖尿病の患者さんが激減している>

妊娠糖尿病の治療としてカロリー制限だけが指導されて、糖質はたっぷり摂取するように言われている理由は、一般的な内科や産婦人科の医師や栄養士は、
「胎児の主要なエネルギーはブドウ糖であり、断じて胎児血中でケトン体が増えてはならない。」
と思いこんでいるためです。


しかし、産婦人科医の宗田哲男先生は自身が糖尿病を糖質制限であっさり治療した経験から、妊娠糖尿病も糖質制限すればよいと考えました。

実践したところ、妊婦さんの血糖値はすみやかに改善して、母親も健康だし、生まれてくる子供にも何の問題もありませんでした。

なにより、安産が増えました。


そして正常妊娠の母体血、臍帯血、胎盤、母乳栄養新生児などの血液を計測してみるとケトン体が高いことも確認され、論文報告されています。

Ketone body elevation in placenta, umbilical cord, newborn and mother in normal delivery
Tetsuo Muneta,  Eri Kawaguchi,  Yasushi Nagai,  Momoyo Matsumoto,  Koji Ebe,
Hiroko Watanabe,  Hiroshi Bando
http://www.toukastress.jp/webj/article/2016/GS16-10.pdf


宗田マタニティクリニック( http://muneta.org/ )のように糖質制限の食事指導をしている産婦人科であれば、妊娠糖尿病と診断されても、母子ともに何の問題もなく出産に至るケースがほとんどです。

宗田哲男先生のフェイスブックのグループ( https://www.facebook.com/groups/ninshin/ )に参加されるとわかりますが、ここでは以下のごとくです。

「一度妊娠糖尿病になったら次の妊娠もまた高率に妊娠糖尿病になってしまうのが現在の治療ですが、実は糖質制限を知ってしまった当院の方は次には妊娠糖尿病ではなくなっています。」

妊娠糖尿病になった方が糖質制限をすると、出産後も糖質制限を継続される場合が多くて、その場合は次の妊娠時に妊娠糖尿病はほとんど出ないのです。


その宗田マタニティクリニックでの糖質制限は断じて糖質41.6~46.0%の食事ではありません。

糖質摂取量は20%以下でしょう。

動物性のたんぱく質や脂質もがっちり摂取しますが、問題ありません。




<能登先生の研究で、危険な糖質制限として指摘されたのは糖質摂取量37%の食生活>


覚えていらっしゃるでしょうか、新聞の一面を飾った能登先生の論文

「糖質制限すると生活習慣病が増え、死亡率が高まる」

というものでしたが、あの論文で「危険な糖質制限」として指摘していた糖質摂取率が37%です。

このブログでその論文について紹介したのはこちらの記事です。

http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat31/5.html


この論文の内容をわかりやすくするために、ファストフードで比較して示したのがこちらですね。

http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat6/post_159.html

ビッグマック+コカ・コーラのSサイズをマクドナルドで食べるとちょうど糖質37%ぐらいになります。

そういう食生活は生活習慣病を引き起こしやすい危険な食事である、ということになります。


現実としては、「ビッグマック+コカ・コーラのSサイズ」が糖質制限食だと思っている糖質制限実践者は皆無に近いと思います。

山田先生のロカボでさえも最大糖質摂取量は25%かそれ以下でしょう。

ですから糖質制限実践者からしたら、糖質摂取量37%の食事がよいか悪いかなんて、論じるまでもない馬鹿げた話だと思っていました。




<結論:40%前後の糖質摂取時は肉は食いすぎるな>


今回の妊婦さんの前向きコホート研究を見ると、能登先生のメタアナリシスも含めて、糖質40%前後の摂取の時の栄養バランスを考えることって、けっこう意味があるのかもしれないなと思います。

「37~42%の糖質摂取+主に動物性のたんぱく質や脂質の摂取」は重大な病気(冠動脈疾患や生活習慣病)を起こしやすいかもしれない

ということが示されているということですね。


中途半端に糖質摂取量を減らしたときに肉を積極的に食べるのはお勧めできない

ということになります。


これは晩ごはんだけ糖質抜きのような緩やかな糖質制限に取り組むときにぜひ注意してほしいポイントです。

糖質摂取量40%程度の食事の場合、肉ばかりではなくて、魚料理や豆腐料理主体の「地中海食風」や「和食風」のおかずを意識的に摂る方が安全かもしれない。

気にかけておきましょう。



もちろん、断糖肉食できる人には関係ないけど(笑)。




関連記事
マイルドな(中等度の)糖質制限で脂肪摂取が増えるとかえって危険 
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat31/post_150.html

ちなみに、今回の記事は予定している別な記事の前ふりの記事だったりしますw

2017年9月 8日 16:21

スポンサードリンク

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://xn--oqqx32i2ck.com/mtos/mt-tb.cgi/404

コメント(7)

カルピンチョ先生、いつも詳細な解説をありがとうございます。更新を楽しみにしております。仙台で神経内科医をしております大酒のみのヘルミと申します。
私事ですが、糖質制限歴8年を生かして、去る9月28日にアボット社 ニュートリションライブセミナー で講師をしました。
セミナーのオンデマンドURLです。
フラッシュメモリーが対応しているPCから視聴が可能となります。
(スマートフォン等からは視聴できません)
2週間くらいは視聴できるようです。
神経難病患者に糖質制限のメリットが反映される日が来るように頑張りました。よろしければご覧ください。

http://ondemand.seminar.vcube.com/ondemand/v/af2d8d569d3f5778cc035818dc04a1f5053265af

先生こんにちは。いつも楽しく拝見しております。

今回のお話しもまたまた考えさせられる内容でした。

ご存知の通り会社内ではプチ糖質制限がブームです。

痩せたい先輩、健康維持したい先輩が糖質を意識した生活に
なっている事は確かです。

ただ、結局は中途半端な糖質制限になっているのですね。

私が出した結果に皆驚いていますが、3食スーパー糖質制限に
取り組むまで困ってはいない状況です。

私の場合は合併症などの明らかな敵がいたので一気に
切り替えられたのだなと。

腰痛かと思ってたらいつの間にか骨折をしていた先輩には
ぜひ試して欲しいと思っています。

少量食べると呼び水になる糖質はいっぺんにスーパーに
制限した方が楽なんですけどね。

ちなみに8月の結果A1C5.9パーセントを維持。
先日の献血ではGAが14.9と正常値でした!!
(4月には16%位でした)

先生のおかげでございます。ありがとうございます。
今後のブログを楽しみに、そして励みに頑張ります。

ご視聴いただきありがとうございます。
先週アボット社の担当に確認したところ、今年いっぱいは見られる予定だとのことでした。
当初聞いていたよりも延長されたのかもしれません。

気がつくのが遅れてしまいました。
私としては、ぜひとも保険適応のきく低糖質経腸栄養剤がほしいので、どうぞ存分にご紹介ください。
願ってもないことで、ありがとうございます。
今年いっぱいはオンデマンドも見られるようです。
エントリーに手間がかかりますが、いい加減なクリニック名でもアクセスできます(存在しない医療機関でも大丈夫!)。
よろしくお願いいたします。

コメントする

(お気軽にコメントして下さい☆丁寧にお答えします。コメントは承認されるまでは表示れませんが今しばらくお待ち下さい。)

妊娠と糖尿病

関連エントリー

糖質40%摂取時は動物性脂肪・たんぱく質摂取が妊娠糖尿病のリスクになる


プロフィール

carpincho3

50代の男性医師です。低糖質ダイエットを実践してその効果に驚き、このサイトを作りました。

連絡先はこちら↓
carpincho3blanco3@gmail.com 
(全角の@を半角の@に変えてください。)

私のブログをまったく読まずに一方的に質問を投げかけるのはおやめください。 いただく質問の答えは、ブログ内の記事、あるいはコメントでのやり取りに記載されている場合が多いと思います。 量が多くて読むの大変だから、ということであれば、知恵袋などの質問サイトをご利用なさってはいかがでしょうか。 また、コメントへの返信やメールへの返信は「無償の善意の第三者」としてやり取りさせていただいているつもりです。 自分の家臣に問いただす殿様みたいな非常識な投げかけは、ときに無視しますので、あしからずです。 コメントやメールには医学的に間違いないようにお答えしたいと思いますし、急に忙しくなって対応できないこともありますので時間がかかる場合があります、ご了承ください。


サイト内検索

当サイト内の記事を検索が出来ます。

記事総数: 326
コメント総数: 3820
スポンサードリンク
糖質制限関連おすすめ書籍
ウェブページ
リンク
読者の皆様へ

糖質制限がうまくいかない人は明らかに一定数存在しますし、その方々の存在を否定するつもりなど毛頭ありません。
人はそれぞれ遺伝子が違い、環境が違い、そのアプローチに挑むときの年齢や健康状態も違うのですから、同じことをしても同じ反応が出ないのは当然のことだと思います。 私も、そのことについては頻繁に言及しています。

しかし一方で、記事一つ一つは、異なる人へ向けての異なるメッセージです。
すなわち、個別記事というものは、どういう人々に何を伝えるか、ターゲットを明快にして書くものだと私は考えています。
そういうところでいちいち、しかし、例外はあります、とか言って全ての人に配慮した注釈を付けると、読む側もメッセージがなんなのかわからなくなります。

したがって、読まれた方の立場次第では、その記事では自分の存在を無視されているように感じる、配慮が足りないと感じられる記載内容があり得ます。
その場合、その記事はほかの人に向けられた記事であると、スルーしていただけたらありがたいです。

よろしくお願いします。

ぽっちゃりも糖質も菊芋におまかせ ↑宣伝ヽ(´▽`)/
スポンサードリンク