1型糖尿病患者さんがSGLT2阻害剤を使う危険性について
今回はごく一部の人を対象にした記事です。
1型糖尿病の特殊性について、改めていろいろと考えさせられる話になっています。
いろいろと考えるべき問題、他山の石となりうる話も入っていると思いますが、さっと読んで自分には関係ないと思う人はスルーしてくださいね。
では、始めます。
先日(2017年6月9日)、ある1型糖尿病患者さんから相談を受けました。
以下のような内容です。(一部編集済)
---------------
4月にケトアシドーシスで救急搬送されました。PH6.95
(日頃の治療内容→フォシーガ服用 内因性インスリンゼロで、持効インスリン10単位/日 速効は夜や外食時だけ)
インスリンはしっかり打っていたし勿論日ごろから水分は気をつけ多めです。
何が原因だったかわからずモヤモヤしながらただ体調管理続けております。
思い当たるのは喉が少し痛くなり出していて間もなく異変が起き、入院中ヘンな咳が激しくなり退院後2週間近く治まりませんでした。
入院中この咳に関して特に診てもらわなかったのですが他に理由が見つかりません。
インフルエンザやノロでなくてもヘンな風邪?にやられTCA回路のどこかが狂ってしまった、それくらいしか想像できず、だとしたら今後もほんの少しの体調変化も恐ろしくなるなと。不安に陥りました。ただ怯えていても仕方ないで何とかまた元気にやっております。
でもなんだったのかな~><
もう二度となりたくない。死ぬのかなあと本当に思いました。
原因がここ!とわかれば対処したいものです。
---------------
さて、こちらの話ですが、重要な問題点が一つあります。
1型糖尿病に対して、フォシーガなどのSGLT2阻害剤は未だ保険適応外です。
というか、禁忌ということになっているはずです。
ただし、SGLT2阻害剤が1型糖尿病の病態改善にも有用であるというデータはありまして(理論的にもそうですよね、内服で結果として得られる血糖値は糖質制限の場合と似ていますから)、臨床治験は行われています。
フェーズ3ですし、遠からず保険適用になるのではないかと考えます。
しかし、気になる問題点があります。
1型糖尿病患者さんがSGLT2阻害剤を服用すると、けっこう高い確率でケトアシドーシスを引き起こしてしまうのです。
まさしくこの方のケースがそれのように思われました。
ということで、以下のような返信を差し上げました。
---------------
たいへんでしたね~、お疲れ様でした、無事に戻られてよかったです。
今回の件ですが、おそらく呼吸器感染症が引き金になっていたと推察します。
不顕性感染であっても感染症なので、今回、それに対して発動したサイトカインが副腎皮質を刺激してコルチゾールがインスリン作用をブロックして・・・ということは考えられます。
でも、それだといつまたどんなきっかけでKAが発生するか予測がつかないので不安ですよね。
ひとつ、現在の投薬に関してですが、
1型糖尿病患者さんがSGLT2阻害剤を使用した場合、非高血糖性ケトアシドーシス(Euglycemic diabetic ketoacidosis)が高頻度で発生することが報告されています。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/jdi.12401/pdf
デンマークでの研究結果について山田悟先生がメディカルトリビューンで解説されていますが
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2016/0707503998/index.html?_login=1#_login
「1型糖尿病ではSGLT2阻害薬を服用中のケトアシドーシスの頻度は2型糖尿病よりも高く、SGLT2阻害薬服用中の1型糖尿病患者の臨床試験では9.4%がケトーシスを発症し、6%がケトアシドーシスを呈していた。」
ということです。
けっこう高頻度でDKAが発症しています。
私はこれについてまだ不勉強でメカニズムの説明はできないのですが、
事実として、
「1型の人がSGLT2阻害剤を使うのはDKA発症のリスクが高まる。」
ということを念頭に置いておいていただいたらいいかと考えます。
私もSGLT2阻害剤が出てすぐは1型の人こそ使うべき薬であると考えたのですが、
おそらくですが、セーフティーマージンが狭くなる可能性があるかと考えます。
1型糖尿病患者さんが厳しい糖質制限(ケトン食)をしながらSGLT2阻害剤を使うと軽い感染症でもいっきにケトアシドーシスの状態に転げ落ちやすくなっているのかなと。
(詳しく言い変えると、最初から糖質を摂取しない糖質制限と異なり、SGLT2阻害剤はマッチポンプの薬であることには変わりないので、生理的タイミングとはいささか異なるタイミングで血糖が降下するのではないか。そのことがケトン体産生のスピードを生理的なそれを超えた高速で進めてしまってるんじゃないかと。その場合、感染時のストレスでコルチゾールなどによりインスリン作用がマスクされた時の基礎分泌インスリン不足状態による急激なケトン体上昇が、糖質制限単独で行っていた時よりもより急峻にシビアに起こりやすいのかなと。)
だから今回の軽い臨床症状の時点ですぐにケトアシドーシスになってしまったのではないでしょうか?
では今回のような事態を避けるにはどうすればいいか?
1.フォシーガをやめてみる
2.糖質制限を少し緩めにしてフォシーガは継続する
3.まめに血液のpHと乳酸値やケトン体値をチェックして対応する(非現実的ですが)
これらがとりあえずの対応になるかと考えます。(DKA回避のための)
メカニズムについてはまた文献読んで考えてみます。
https://www.dovepress.com/role-of-sodium-glucose-cotransporter-2-inhibitors-in-type-i-diabetes-m-peer-reviewed-article-DMSO
http://care.diabetesjournals.org/content/38/9/1638
---------------
ということで、そのやりとりに関して、ほかの1型糖尿病患者さんの目に触れさせないのはもったいない(手前味噌で申し訳ありません)と考え、こちらに掲載いたしました。
1型糖尿病患者さんで、何らかの手段でSGLT2阻害剤を手に入れて使用している患者さんのみなさん。
ケトアシドーシスを起こす危険性が高まることをぜひ意識してください。
いろいろ考えた上で自己責任でそれを利用されているのでしょうから、やめろとは申しません。
血糖を劇的に下げるというメリットもあります。
しかし、1型の方がSGLT2阻害剤を使うときには体調の変化に細心の注意を払い続けてください。
インスリンだけで管理しているときに比べればよりケトアシドーシスに陥ってしまいやすくなっている可能性があること。
これを常に念頭に置いてくださいね。
その上で、使ってください。
・・・さて、これだけで終わってしまうとブログ管理者としては自分で自分に不満が残ります。
そこで、メカニズムについて検討してみました。
でも、長いので別の記事での紹介とします。
SGLT2阻害剤内服でケトアシドーシスになるメカニズムの仮説
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat4/sglt2_2.html
コメントする
(お気軽にコメントして下さい☆丁寧にお答えします。コメントは承認されるまでは表示れませんが今しばらくお待ち下さい。)