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菊芋の効果・効能について


菊芋の効果についての質問を受けました。

以前にこの植物の機能について調べたことがあり、その時にちょっと気になる表現を見たことがあったのでそのことも含めて書いてみます。


まず、いただいた質問はこういうものです。

「「糖質を下げる食べ物」に関連する質問をさせて下さい。『菊芋は血糖値を下げる効果がありますか?』糖尿者には良い食材と聞き、生でサラダとして食べたことが有り、あっさりと美味しい物です。現在、畑で作っています。菊芋は芋ですから、澱粉質であり血糖値を上げる作用を持っていそうにも思えます。消化吸収プロセスに多少触れた形でお教え頂ければ、正確に理解でき納得がいくと思います。
よろしくお願いします。」
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat14/post_28.html#comment-319

言葉の勘違いが問題になるのかもしれないので、私ができる限りにおいて、正確に書きたいと思います。


コメントでも回答しましたが、キクイモのでんぷん質はイヌリンという多糖類です。

これは、果糖がたくさんつながったものにブドウ糖が1個だけ端っこについたものです。

我々人間が持っているでんぷん分解酵素のアミラーゼなどは、この構造の多糖類を分解することができません。

ですから、理論上はこの多糖類から糖質を摂取することはできないのです。

イヌリンを食べても血糖値は上がらないはずです。

(分解されない、つまり細胞内に取り込まれない性質を利用して腎機能評価に使われてもいるくらいです。)


以前に、白インゲン豆にはアミラーゼの機能を阻害する物質が入っているから、その物質とでんぷん質を一緒に食べるとでんぷんが分解されにくくて糖質摂取を抑えることができる、という話を書きましたね、あれと理屈は似ていますね。
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat14/post_123.html


さて、菊芋に関して気になるのは、質問された方の言葉にもあるように、

「菊芋は血糖値を下げる効果がある」

という言葉がしばしば認められることです。

これは、明らかに間違いです。


「菊芋を食べても血糖値は上がりにくい。」

という表現ならば正しいのですが、

「血糖値を下げる食べ物」ではありません。

どちらかと言えばこんにゃくに近い食べ物だと思ってください。

食感がジャガイモやサツマイモなどの芋に近いけれども、こんにゃく同様にそれ自体は血糖を上げる作用はほとんどない食べ物、ということです。

「こんにゃくが血糖を下げる」と思っている人はいませんよね?

それと同じことです。


これは日本語のWikipediaのイヌリンに関する表記に疑問を感じた部分でもあります。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%8C%E3%83%AA%E3%83%B3

日本語のイヌリンの説明に以下のような表記があります。

「通常の消化過程ではイヌリンが単糖類にまで分解されることはないので血糖値が上昇せず、糖尿病患者にとってはその治療に有効性があると考える人がいないわけでもないが、厚労省は否定している。」

この説明も理論的によくわからなかったので、厚労省のページを調べてみました。

こんなページがあります。


「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない
成分本質(原材料)」の食品衛生法上の取扱い

http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syokuten/040601/betu.html

1     「医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質(原材料)リスト」(以下「同リスト」という。)の基本的な考え方
 医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しないとは、薬事法の規制を受けないという趣旨であり、同リストに収載されているものを食品又は食品添加物として使用する場合には、当然に食品衛生法の規制の対象となるものであることに留意されたい。

イヌリンはここに載っていました。

(4)     同リスト「3.その他(化学物質等)」のうち以下に示すものは、これらを食品添加物として使用する場合にあっても「一般に食品として飲食に供されるものであって添加物として使用される物」として取扱うこと。
 なお、化学的に合成した物質であるか食品等より抽出、精製した物質であるか等その製造工程にかかわらず、人の健康を損なうおそれがある不純物の混入等がないよう製造業者等に対し製品について自主的に規格を設定する等指導を徹底されたい。また、食品等より抽出、精製する際に用いる物質は、食品添加物に該当することに留意されたい。

アルブミン、イオウ(ただし、メチルサルフォニルメタンとして)、イコサペント酸(EPA)、イヌリン、オリゴ糖、オルニチン、果糖、L-カルニチン注1)、還元麦芽糖、環状重合乳酸(ただし、乳酸オリゴマーとして)、γ-アミノ酪酸、絹(ただし、絹タンパクとして)、グルコマンナン、クレアチン、ゲルマニウム注2)、コエンザイムQ10、コラーゲン、コンドロイチン硫酸注3)、植物繊維、食物繊維、ゼラチン、チオクト酸注4)、デキストリン、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ドロマイト鉱石、乳清、乳糖、フルボ酸、ホスファチジルセリン、リノール酸、リノレン酸


これ、どういうことかというと、イヌリンは「医薬品的効能効果を標ぼうしてはいけない物質」ということです。

「血糖値を下げる」とか「糖尿病に効果がある」という表現を使ってはいけないという意味です。

もちろん、上に書いたように、イヌリンにはそのどちらの効果・効能もありません。

「普通のイモのでんぷんのように感じるイヌリンを食べても理論上は血糖値は上がらない」

ということが言えるだけで、「糖尿病を治す食べ物」とは絶対にいえません。

厚生労働省もそこのところを厳密に定義しているだけなのです。

それなのに、Wikipediaの表記ではあたかも厚生労働省がイヌリンのことをいじめているかのように受け取れますのでご注意ください。


Wikipediaのイヌリンの表記にはほかにも間違いがあります。

「特に慣れていない人にとって、イヌリンを含む食物を多量に摂取するとガス化する可能性があるので、最初のうちは適度に摂取するのが望ましい。しかしながら、たいていの場合は摂取を繰り返すうちに消化が行われるようになってゆく。」

という部分です。

最初の文章は納得できますが、後の文章が不可解です。

「人間はイヌリンを分解する酵素を持っていない」のに、「摂取を繰り返すうちに消化が行われるようになっていく」なんてことはありえません。


そもそも、英語のWikipediaでinulinを見るとここの部分は、
http://en.wikipedia.org/wiki/Inulin

「Inulin-containing foods can be rather gassy, in particular, for those unaccustomed to inulin, and these foods should be consumed in moderation at first.」

としか記載されていませんので、後半の文章は日本語のWikipediaでだけなぜか、誰かによって追加されたものです。

おそらく、イヌリン販売を目的としているサプリメント業者の方から意図的に追加された文章なのではないかと思われるのですが、論理的につじつまが合わないのでかえって不信感を募る表記となってしまっています(笑)。


あえて、日本語Wikipediaを改ざんしたサプリメント業者さん(決めつけてる^^;)の意図を組んで訂正すれば、この文章は、

「摂取を繰り返すうちにイヌリンの消化を効率的に行う腸内細菌が増えてくるので、ガス化が起こりにくくなり、不快な消化器症状が消えてたくさん食べれるようになっていく」

とすべきです。




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最後に、菊芋、誤解なきように書いておきます。

サツマイモやジャガイモを食べる代わりに菊芋を食べれば食後高血糖にはなりにくい、ということは言えます。

ですから、キクイモは糖尿病の食事療法(糖質制限)の素材としては優れているものです。

最初は少しずつ食べるのが良いようです。




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2012年11月23日 11:39

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コメント(8)

初めてコメントさせていただきます。
医療非専門家の50歳手前のオヤジです。

江部先生・夏井先生のサイトからだったと思いますが,先生のサイトにも行き当たりました。
数年前人間ドックで空腹時血糖値が境界値とされてから,いい加減な糖質制限をしている素人です。

糖質制限については,自分の健康等の問題だけでなく,その有効性を頑なに否定しようとする某学会の問題から,糖質過剰供給状態になった社会経済文化的背景まで興味がつきない問題なのですが,医学的・科学的?議論については,どうか原発のような低レベルの議論じゃないまともな議論がされてほしいなあと個人的には思っています。

さて,私は先日来腸内細菌の役割について興味を持っております。糖質制限下で腸内細菌はどうなるのか,糖質が供給されなくて全く問題はないのか,そもそも人間の腸管においては,単胃動物のような作用は起こっているのかいないのか,非専門家の興味関心でのネットサーフィンでは,まだよく分かっていません。菊芋ももしかしたら腸内細菌へのフィードとしては理想的だったりして,とか思ったりします。

そこで,今気になっていることを少しだけ書かせて下さい。
「必須糖」などない,と江部先生も先生も書かれます。エネルギー源は他にあるのだから,肝臓で糖新生により必要な血糖は供給されるのだから,と。
ただ,こっからさきは素人には太刀打ちできない話になってしまうのですが,エネルギー源でない糖の作用として,糖鎖というものが果たす情報伝達作用???があるという話を見ます。
それに必要な糖が肝臓でも糖新生で生まれないのなら,そこに問題があると突っ込まれる可能性があるのではないかと。
実際,この点を指摘して糖質制限に警鐘を鳴らす意見も見ました(糖尿病学会などがそういうことを言ってないのはなぜ?)。
私の勝手な直感では,そういう時に言われる「必須糖」というものをあまねく摂取することなどできるのだろうか?糖鎖の作用に必要な必須糖というものが有るとしても,体内での合成や,腸内細菌による生成で問題ないのではないか(そうじゃなきゃ江部先生死んでるはず)と思うのですが,素人の悲しい限界で,これ以上のことは分かりません。
糖質制限がここまで学会の見解を追い詰めてきている状況では,ありとあらゆる誹謗中傷があるのではと思いますし,単純な興味としても,生体に必要な必須糖と言われるものはどこから供給されるのか,知りたいなと思います。
私の情報収集能力が不足していて解決済みの問題を蒸し返しているならすみません。

今後ともよろしくお願い申し上げます。

カルピンチョ先生こんばんは。
以前、脂漏性皮膚炎でコメントさせていただいたぐりです。

今日、本屋さんで糖質オフスイーツのレシピ本をみつけました!
ショートケーキ、ガトーショコラ、チーズケーキ、ホットケーキ、クッキー、ブラウニー、プリン…私が食べたかったものばかり。
ドカ食いはダメですが、糖質量5g以下でほどよい満足感が得られる…というかんじのレシピになっているようです。

明日、まずはおからを使ったホットケーキ(2枚で3.2g)を作ってみようと思います!
おもしろいなーと思ったのはスライスチーズを使うことです。
つなぎの役割を果たしてくれるのだとか。

ああ、でも幸せです。
もう一生「気持ちよくホットケーキを食べることはできない」と思っていたので、ほんとにうれしくて。

カルピンチョ先生 どうもありがとうございます。

その後ネットでいくら見ても必須単糖とか糖鎖についての情報があまりないのでこれは眉唾物かと思ってました。
必須単糖と言われる8種ないしは10種の糖は全て体内で生成されるという情報は,先生ご紹介の難しいサイトじゃないどっかのサイトで私も発見して,なーんだと思っておりました。

どうやらこの種の話は「糖鎖ダイエット」とかいうダイエットに絡む商品販売のためのトンデモ話のように思えます。

糖質過剰の問題性は認めつつ,素人には分からない微妙なところで糖質制限を攻撃してくるやりかたのようです。

コウワイコワイ(^_^;

最近はイヌリンを摂取するのにこんなのもあるそうです。
(原料の主成分がイヌリンなので、そのぶん食用植物油脂が減り、それに伴って「トランス型脂肪酸」も減ってるそうです)

「明治オフスタイル脂肪分70%オフ」
https://www.meiji.co.jp/dairies/butter/meiji-offstyle/product/

オマジナイと思って低糖質パンを食すときによく塗ってますです。

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しかし一方で、記事一つ一つは、異なる人へ向けての異なるメッセージです。
すなわち、個別記事というものは、どういう人々に何を伝えるか、ターゲットを明快にして書くものだと私は考えています。
そういうところでいちいち、しかし、例外はあります、とか言って全ての人に配慮した注釈を付けると、読む側もメッセージがなんなのかわからなくなります。

したがって、読まれた方の立場次第では、その記事では自分の存在を無視されているように感じる、配慮が足りないと感じられる記載内容があり得ます。
その場合、その記事はほかの人に向けられた記事であると、スルーしていただけたらありがたいです。

よろしくお願いします。

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