絶食時の脳は絶食3日目にエネルギーの33%をケトン体に頼り、40日目には70%にも到達する
糖質は大事な栄養素だから体の中で用意する仕組みがある。
だから必死で食べる必要はない。
そう言うことを書きたかった記事の中で、記事の本質ではない記述の部分に不正確なことがあるということをgeturinさんに指摘されて、調べてみました。
私の完全な記憶違いで、不注意な記述でした。
ということでそのことに関する訂正記事です。
問題点は、geturinさんから以下のようにご指摘を受けました。
「> ケトン体がいくら代替してくれるといっても、ケトン体が脳をサポートできるのは目いっぱい頑張って30%程度だと言われます。
とありますが、福田一典先生は近著で「絶食時にはケトン体が脳のエネルギーの60%を担っている」と記しておられます。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4800308895/ref=oh_aui_detailpage_o05_s00?ie=UTF8&psc=1
また、直近のブログでは、「アストロサイトの脂肪酸代謝→乳酸産生→神経細胞の取込み」、結果として「脂肪酸が脳のエネルギーの20%を占めている」とも書かれています。
http://blog.goo.ne.jp/kfukuda_ginzaclinic/e/7634bfe66659ff3a39447037734fa346
かるぴんちょ先生の「ケトン体の脳のエネルギー寄与率30%限界説」の出所を教えて頂けませんでしょうか。」
私は教科書的には1/3程度だと思い込んでいたのですが、geturinさんが福田先生に問い合わせてくださって、
「福田先生から回答をいただきました。
・絶食時のケトン体の脳のエネルギー利用率は60%
・1970年代から教科書レベルの常識である
出典は以下
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM197003192821209
・論文は多数あるし、最近の論文でもこの論文を引用している。
とのことでした。」
とのコメントをいただきました。
あれあれ~?
いくつかの教科書を本屋さんでこっそり読んでみても数値的な記述が見つけられずに、
ストライヤーの生化学の第5版を借りて読んでみました。
第30章の第3節
「食物摂取と飢餓は代謝の変化を引き起こす」
というのが860ページから書いてあります。
その中でも、
第3節の1
「長期の飢餓では代謝が適応したんぱく質分解を最少にする」
というパートが862ページから始まっていました。
要約すると
絶食当初はグリコーゲン分解で血糖値上昇が図られるとしても、それでは全然賄えないために腸管上皮や分泌タンパクがアミノ酸に分解されて糖新生に利用されます。
次に分解されて糖新生に使われる可能性があるのは筋肉ですが、飢餓に陥ったからと言って筋肉をどんどん分解して運動能力を下げると、敵から逃げられなくなり、それは死を意味します。
ですから、筋肉の損失は最小限に抑えられなければならない仕組みを我々は持っています。
我々が体内に貯蔵しているエネルギーは主にトリアシルグリセロール(要するに体脂肪)であり、これを効率よく利用しなければならない。
という感じ。
ここまでが前振りで、ここからは、863ページの真ん中あたりからの記述をそのまま写しますね。
筋肉の損失はどのようにして抑えるのだろう。飢餓のおよそ3日後には、大量のアセト酢酸とD-3-ヒドロキシ酪酸(ケトン体)(図30.17)が肝臓で 作られる。アセチルCoAからのこれらの合成が著しく増加するのは、脂肪酸の分解で生じるアセチル基総てをクエン酸回路で酸化することはできないからであ る。アセチルCoAをクエン酸回路に入れるのに必要なオキサロ酢酸が、糖新生によって使い果たされてしまうのである。その結果、肝臓では大量のケトン体が 形成されこれが血中に放出される。この時点では脳はかなりの量のアセト酢酸をグルコースの代わりに消費し始める。飢餓の3日後には脳のエネルギー必要量の 約1/3はケトン体で賄われるようになる。(表30.2)。心臓もケトン体を燃料として使う。
という記述がありました。、私の記憶にとどまっていたのはここまでの文章でした。
めくった864ページに出てくる(表30.2)も見ていなかったのか、記憶に残っていませんでした。
<(_ _)> どうも申し訳ございません。
この文章は次の段落に移ります。
飢餓が数週間続くと脳の主な燃料はケトン体になる。スクシニルCoAからのCoAの転移によってアセト酢酸が活性化されアセトアセチルCoAとなる(図 30.18)。アセチルCoAアセチルトランスフェラーゼ(チオラーゼ)による分解で2分子のアセチルCoAが生成し、これがクエン酸回路に入る。本質的 にはケトン体は脂肪酸と等価な化合物で血液脳関門を通過できる。飢餓の1日目には脳が必要とするグルコースは1日当たり約120gであるが、この時点では これがわずか40gとなる。肝臓が脂肪酸を効率よくケトン体に変換し、脳でこのケトン体が利用されることによって、グルコースの必要量が著しく減少するの である。したがって飢餓初日よりも筋肉の分解は少なくなる。飢餓初日に1日当たり75gだった筋肉の分解量を20gに減らすことは生存にとってきわめて重 要である。生存可能な飢餓の期間は、主としてそのヒトのトリアシルグリセロール貯蔵量によって決まる。
貯蔵したトリアシルグリセロールが使い果たされたときにはどうなるのだろう。残された唯一の燃料源はタンパク質である。タンパク質の分解が加速し、心臓、肝臓、腎臓の機能が失われて否応なく死に至る。
で、(表30.2)がこれです。
脳で使われる燃料
飢餓 3日目 グルコース100g ケトン体 50g
飢餓40日目 グルコース 40g ケトン体100g
・・・と、いうことで、
飢餓の場合、
三日目には脳がエネルギーの33%をケトン体に頼り、
数週間後は脳はエネルギーの70%をケトン体に頼る。
これがストライヤーの生化学の教科書にはしっかり記載されていました。
わたしがどうして、「絶食状態で脳がケトン体を利用するのは1/3程度」と思いこんでいたかというと、40日間にも及ぶ絶食の実験に関しては、通常は起こらないことだから覚える必要ない、と、勝手に判断していたためかと思われます。
(膨大な量の教科書を読んで要点を覚えようとするとよくやってしまうんですよね・・・。)
どうもすみませんです。
反省しております。
geturinさん、ありがとうございました。
かるぴんちょ 先生
小生の疑問に丁寧お答え頂ありがとうございました。
>geturinさん
ケトン食を実践している難治性癲癇の患者さんたちのことを思えば、33%では少なすぎますよね、そのことに早く思い至るべきでした。
どうもありがとうございました。
>さゆりさん
コメントを読ませていただいても状況がよくわかりません。(;^ω^)
・・・
返信コメント差し上げていたのですが、ご本人からの要望でコメントすべて削除してくださいとのことで、ここも変更しました。
お読みになってその後の展開をお待ちになっていたみなさんはすみません。
医学も生理学も素人です。
『したがって飢餓初日よりも筋肉の分解は少なくなる。飢餓初日に1日当たり75gだった筋肉の分解量を20gに減らすことは生存にとってきわめて重 要である。』
筋肉はけっこう減るのですね!糖質制限反対派の方がよく、「糖質を摂取しないと筋肉が減って寝たきりになる。」等と大げさに言っているのだと思っていましたが、貯蔵された体脂肪が有ってもケトン体に切り替わるまでに筋肉は減るのですね?
JOJIさん
>糖質制限反対派の方がよく、「糖質を摂取しないと筋肉が減って寝たきりになる。」等と大げさに言っているのだと思っていましたが、
・・・ここで出している実験結果の数字は糖質制限のときではなくて、絶食時のものです。
絶食した人が「筋肉が減って寝たきりになる。」のは当然ですね。
糖質制限して寝たきりになるなら、エスキモーもマサイ族も、もちろん農耕開始以前の人るはすべて絶滅してますよ。
>貯蔵された体脂肪が有ってもケトン体に切り替わるまでに筋肉は減るのですね?
・・・ちょびっとは減るとは思いますが、命にかかわるようなレベルではありません。
ただし、「瞬発能力を必要とする格闘家」などにとっては、競技の結果にかかわる減り方なのかもしれません。
アルペンスキーの選手の記事を読んでみてください。