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がん患者が糖質制限したらかえって危険なのか?


前の記事で、糖質制限すると血糖値はどうなるかということの説明をしました。

空腹時血糖値が保たれるだけの話で、低血糖など起こりえません。

糖質制限の本質は血糖の乱高下を防ぐことにあります。
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat6/post_203.html


今さらな話ですが、どうしてあの話をわざわざ書いたのか。

それは、非常に短い、しかし他人のプライバシーを暴きながら糖質制限を批判するコメントを武田さんという方から頂いたからです。


前の記事を下敷きにして、コメントに回答させていただきます。


<コメントへの回答>

さて、最近、武田さんという方からいただいたコメント、以下のようなものです。

「(個人情報につき管理人が削除、以下、〇も管理人による伏字)〇がんを糖質制限で治そうとしていた人が、〇腫瘍になったそうだ。
腫瘍はかなり〇〇〇〇、(個人情報につき管理人が削除)
こんなアホな記事を書いてる場合か? 」
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat28/post_202.html#comment-1883

武田さんは、おそらく、「糖質制限すると低血糖状態に陥る」という前提の上でコメントされていると思います。

「だから低血糖が癌を悪化させたのだ、とんでもないぞおまえら糖質制限推進派のやってることは!」

という論法なのでしょうね。


しかし、仮に

「低血糖状態にさらすことでがん細胞が新たな増殖能を獲得する」

ような実験結果が確認されたとしても、

糖質制限だけではその人の体内でそのような状況は起こりえないのは前の記事に書いた通りです。

糖質制限食では、生理的に最も望ましい数値である空腹時血糖値が維持されるだけで、低血糖は起きません。


というよりもむしろ、60%もの糖質を三食三食摂取している人の方が、癌が新たな増殖能を獲得する危険性は高まりうると私は思います。

だって、前に紹介したグラフで一目瞭然なように糖質をたっぷり食べた人の方が

「毎食後に生理的(空腹時)血糖値以下の低血糖状態にさらされる」

のは間違いないのですから。

(血糖値だけで議論した場合は、です。)


また、武田さんのコメントに対して非公開コメントで情報をいただきました。

糖質制限することで癌が悪性化すると負ううわさが飛び交っていたそうです。


その根拠となったのは1年半ほど前のCellの論文だそうで、教えていただきました。

心配してらっしゃったのかもしれませんが、あわてないように。

Control of nutrient stress-induced metabolic reprogramming by PKCζ in tumorigenesis.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23374352


これ、どんな話でしょうか?

この論文のabstractに、こういう一文があります。

We show that PKCζ deficiency promotes the plasticity necessary for cancer cells to reprogram their metabolism to utilize glutamine through the serine biosynthetic pathway in the absence of glucose.

「グルコースが欠損した状況」でがん細胞が生き残るためにはPKCζの欠損が有用である、という話です。

グルコース欠損状況という、生物(少なくとも哺乳類)の体の中では発生しえない状況での実験です。

断じて「生理的血糖値(空腹時血糖)が維持されると癌細胞が新たな能力を獲得する」などという話ではありません。


「培養している癌細胞の培養液から糖質を枯渇させると(生体内ではありえない状況にがん細胞を追い込むと)、そこで生き延びるためにアミノ酸を使うようになり、その癌細胞ではPKCζが欠損していることが多い。そういう癌細胞ははグルコースを使っている癌細胞よりも悪性度が高い(PKCζの欠損している癌を持つ患者では、PKCζを発現している癌を持つ場合に比べると予後が悪い)。」

という話なのです。


それなのに、この論文を引き合いに出して糖質制限たたきをする方々の理屈はこうです。

「(培養細胞の)糖質を制限すると癌の悪性度が高まる、だから(人間が食事で)糖質制限することは危険だ!(糖新生やグリコーゲン代謝が存在して糖質制限しても生理的血糖値は常に正常範囲に維持されるという彼らにとって不都合な事実に関しては黙秘)」

「だからがん患者が糖質制限すると癌の悪性度が高まるぞ!(論理の飛躍です)きけんだ、危険だ、危険だー!(昔、社民党にこういう連呼が得意な方がいらっしゃいましたねえ。)」

「三度三度、糖質をしっかり食え~!日本人なら米食べろー!それこそが日本人の伝統食だから健康を保つ基本だ~!(科学的根拠ゼロです。)」

という三段論法なんですよ。


仮に、グルコース欠損ではなくて、低血糖状態もがん細胞の生き残りのためによくない変化を与えると仮定して考えても、糖質制限食を実践することに心配点はありません。

糖質制限で生理的血糖値(空腹時血糖)以下になるような低血糖状態は基本的に発生しないのですから。


逆に、糖質をたっぷり摂取する方がむしろ低血糖にさらされる危険は増えることも前の記事のグラフを見ていただければ自明のことかと思います。

毎食後にインスリンで抑え込まれた結果として発生する低血糖の時間があるのがわかります(実際、お昼ごはんでどんぶりものとかがっつり食べると、おやつの時間にお腹がすくでしょう、あの時あなたは低血糖状態にある可能性が高いのです)。


そして、グラフを見ていただければ、糖質を食べれば毎食後、高血糖状態がしばらく続くことも明白です。

この時間帯には、グルコースが大好きな癌はきげんよく増殖する可能性が高いわけです。

生理的血糖値でも増えますが、それ以上に増える可能性が高いのです。

(グルコースがなくても生き延びられるようになった癌であってももちろん、グルコースがあればそちらを利用して活発に増殖できるのです。グルコースで増殖する能力を失ったのではなくて、グルコースがなくてもアミノ酸で生きていく能力を獲得しただけの話なのですから。)

この、食後の高血糖の時間帯にがんが増えてしまうのを避けようというのが、糖質制限の発想なのです。


今回の武田さんの投稿で、低血糖状態もがんを悪化させる可能性があると考えると、インスリンの追加分泌で低血糖状態が発生することから、糖質摂取を続けることはさらに危険であることがよく分かったとも言えますね(笑)。

図解するとこうなります。
糖質摂取と癌PING.png
糖質をたっぷり食べる食事の方が、癌を増殖させ、その上悪性化させる危険性も持つということが明快です。


しつこく繰り返します。

癌を持っている患者さんが糖質制限していたとしましょう。

もしもその方で、運悪く転移が起こったり、新たな癌が別の臓器に発生したとします。

それが糖質制限食が原因で引き起こされた現象であるなどとは、私にはまったく考えられません。


少なくとも、糖質制限単独では低血糖は引き起こさないからです。

(次の記事に書きますが、糖質制限している人に、別の原因が複合することで低血糖が引き起こされていた可能性を否定はしません。)


だから、武田さんのコメントは的外れなご心配です。



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2014年5月20日 09:20

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コメント(7)

今、こんな記事を見つけました。

ここから本文です
がん専門家「がんになると突然アイスクリーム食べたくなる」
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140526-00000008-pseven-life

糖質とガンは仲良しなんだなあと改めて思いました。


【 MTプロ 2014年5月30日 】
 糖尿病とがん,その危険な関係/糖尿病患者ががんで死亡する時代,専門医がなすべきことは

糖尿病とがんの間になんらかの関係があることは近年ほぼ疑いのない事実となったが,それに対してどう対応すべきかについては,まだほとんど手付かずの検討課題として残されている。第57回日本糖尿病学会学術集会(5月22~24日,会長=大阪医科大学内科学?教授・花房俊昭氏)の教育講演「糖尿病とがんの危険な関係」で,国立がん研究センター中央病院総合内科・歯科・がん救急科科長の大橋健氏が最新の知見を解説。糖尿病専門医とがん専門医が連携し,がん治療中の患者であっても糖尿病管理の質を上げていく必要性があると述べた。

● 糖尿病があるとがんに罹患しやすいのか

中略

 大橋氏によると,長く議論されてきた「糖尿病があるとがんに罹患しやすいのか?」というテーマには,近年ほぼ結論が出された。これを受けてわが国では2013年5月,日本糖尿病学会と日本癌学会が合同で「糖尿病と癌に関する委員会報告」を公表。糖尿病患者では全がんリスクが約1.2倍,肝がんリスクが1.97倍,膵がんリスクが1.85倍,大腸がんリスクが1.40倍に有意に上昇すると結論付けている(関連記事,同報告は日本糖尿病学会公式サイトからダウンロード可)。

「喫煙が全がんを増やすリスクはおよそ1.6倍,たばこが肺がんを増やすリスクは4.5倍とされる。それに比較すれば糖尿病ががんに及ぼすリスクは大きくないが,確かに存在するとはいえるだろう」と大橋氏。

中略

● 糖尿病によるがんリスク上昇の機序には,インスリン抵抗性とその結果としての高インスリン血症,さらに高血糖による酸化ストレスの関与が指摘されている。

中略

 高血糖については,空腹時血糖とがんリスクの関連を指摘する研究結果も出ている。空腹時血糖の上昇はわずかであっても膵がん,肝がん,および全がん罹患リスク上昇に関連する(JAMA 2005; 293: 194-202),空腹時血糖が100mg/dLを超えるとがん死亡リスクが上昇する(N Engl J Med 2011; 364: 829-41)といった結果だ。これらに加え,近年は肥満や糖尿病の基礎病態となる慢性炎症やアディポサイトカイン分泌異常の関与についても検討が進んでいる。

中略


● 特定の糖尿病治療薬とがんの関連は存在するのか
 糖尿病とがんの危ない関係についてもう1つ注目されるのが,「特定の糖尿病治療薬によってがん罹患リスクは増加,あるいは減少するのか」というテーマだ。

中略

 近年処方が急増しているインクレチン関連薬についても,がんとの関連を懸念する報告はある。膵炎や膵がんリスクが有意に上昇したというものだが,「これらは副作用データベースを基に解析したいわゆる“禁じ手”の解析であり,額面通りに受け取るべきではない」(大橋氏)。ただし,歴史の浅い薬剤であるだけに今後も検討される必要はあるという。

中略

 これらとは逆に,がんを抑制できる可能性が示唆されているのがメトホルミンだ。AMPキナーゼの活性化を通じた細胞増殖抑制作用がその機序とされるが,メトホルミンを服用できる患者は比較的体力があるなどといったバイアスがかかっている可能性もあるという。

 同氏は「現時点では,糖尿病治療薬によるがんへのリスク,あるいはベネフィットについてエビデンスが確立されたものはない。その点を踏まえ,糖尿病治療では,良好な血糖コントロールによる便益を優先して薬剤選択を行うことが望ましい」とする合同委員会報告を強調した。


がんを併発した糖尿病患者への治療は

中略

 糖尿病患者ではがん発症後の予後が悪いことが知られる。診断が遅れがちなこと,徹底したがん治療が行われにくいこと,合併症や有害事象を発症しやすいこと,心・腎機能が低下していることなどがその要因といわれるが,糖尿病の存在ががん治療の“効き”を悪くしている,そもそも糖尿病患者にできるがんはより悪性度が高いといった論もあるほどだ。

 同氏は「そうした患者に対しわれわれ糖尿病専門医ができることがあるとすれば,血糖コントロールだ」と明言する。

 例えば骨髄移植を行った患者では,血糖値の上昇に伴い好中球減少性感染を起こしやすくなるが,同リスクはステロイド投与によっても著明に増加する。こうしたリスクは,専門医による血糖コントロールやステロイドの使用を考慮することで軽減することが可能だろう。

以下略

(医療ライター・軸丸 靖子)

【長谷川】

・メトフォルミンが、評価されていますね。

同氏は「そうした患者に対しわれわれ糖尿病専門医ができることがあるとすれば,血糖コントロールだ」と明言する。

・「糖質制限」が有効なのは、いうまでもありません。

こんばんは

最近、カルピンチョ先生のサイトを知りました。もっと早く知りたかったです。これからも訪問させていただきます。


実はですね、私の身内が、がんになり、江部先生のいう「プチ糖質制限食」を実行させたり、福田一典先生の本を読んだりして勉強しています。糖質を摂取しなければ、がんも増殖しにくいというのを聞いたもので。

そこで、お聞きしたいのですが、カルピンチョ先生の記事に「グルコースがなくてもアミノ酸で生きていく能力を獲得しただけ・・」というのが書いています。
これは、がん細胞は、グルコースがなくてもアミノ酸で生きていけるということでしょうか?私は、ブドウ糖がなければ、がんにはならないと確信していたものですから、この記事は、ちょっとショックでした。

時間のある時で結構ですので回答いただけるとありがたいです。よろしくお願いします。

>コメント非公開希望さん

大変でしたね。


この武田さんという方、あちこちの糖質制限ブロガーのところに恫喝とも取れる因縁つけて回るのが、昔から趣味のようです。

複数の方から、昔は簡単だった〇〇〇〇〇〇解析の情報など、いただいております。

ふふ。

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したがって、読まれた方の立場次第では、その記事では自分の存在を無視されているように感じる、配慮が足りないと感じられる記載内容があり得ます。
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