貝類は素晴らしい低糖質食材・・・ではないってか?
糖質制限をする上でとっても便利なのが「食品成分表」です。
私が使っているのはこれ、主婦の友社のものです。
決定版 みんなが使える食品成分表―知りたい栄養成分値がすぐわかる
10年ぐらい前の本なので、これが最善なのかどうかわかりませんが、引きなれているのでこればっかりです。
食品素材それぞれが含む炭水化物量をチェックするのに便利です。
・・・ところが、その食品別炭水化物をチェックしていて気になることがありました。
貝類の炭水化物含有量です。
アサリとかハマグリとか牡蠣とかサザエとかアワビとかトリ貝とかツブ貝とかの貝類です。
炭水化物含有量がけっこう高いんですよね。
可食部分100g中の炭水化物含有量は以下のように表示されています。
赤貝 3.5g、あさり 0.4g、あわび 4.0g、かき 4.7g、さざえ 0.8g、しじみ 4.3g、はまぐり 1.8g ほたて貝柱 4.9g、とり貝 6.9g
ばらばらなんですが、ネットで検索すると、あさりも4~5g含むように書いてあるものもあります。
ネット上のデータもこういう食品成分表を基にしているはずなのに、どうして同じ食材なのに数値が大きく異なることがあるのでしょうか?
それにそもそも、肉や魚の糖質含有量って100gあたり1g以下、ほとんど含まれていないのが普通ですよね。
それなのにどうして貝類は糖質量がけっこう高いのでしょうか?
そして成分表示表の表示が大きく異なっていたりするのでしょうか?
不思議に思って調べてみたら、面白いことがわかりました。
貝類は、季節によって、また生育している環境によって糖質含有量がけっこう変わってくるのですね。
たとえばホタテ貝の場合、季節によって糖質含有量は0.3%ぐらいから8%ぐらいまで大きく変化します。
これは生殖腺が活発になり、子供づくりをする初夏から夏にかけてはそのエネルギーとしてグリコーゲンを蓄積するためであるとされています。
実際に水産学関係の方が書かれている書類のPDFファイルを見たところ、その変動が劇的であることが見てとれました。
⇒岩手県養殖ホタテガイ貝柱成分の季節変化
http://www.pref.iwate.jp/~hp5507/news/27gou.pdf
次にあさりです。
アサリも実はグリコーゲン貯蔵量がすごく多い時と少ない時とに分かれるのです。
⇒広島県尾道市浦崎地先と広島県江田島湾のアサリグリコーゲン含量の季節変化
http://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/43161.pdf
アサリの場合、グリコーゲンを何のために蓄えているかというと、潮が引いた時のエネルギー源として蓄えているということなのですね。
ふだんは海底にいて、砂の中から取水管と排水管を水中に突き出して海水中のプランクトンを吸い取って食べるとともに、酸素も水中から補給しますが、干上がってしまったら呼吸しないでじっと耐えています。
その間、かられの体を支えるエネルギーを生み出すときに、酸素は使えません。
酸素を使わないでエネルギーを得る手段として、グリコーゲンを分解してグルコースを作り出すという方法をアサリ貝は選択したのです。
その結果、グルコース含有量がけっこう高くなるのですね。
面白いのが、ホタテガイやアサリガイの旬の時期とされるのが、いずれもグルコース含有量の高い時期と重なることです。
お寿司屋さんで食べた貝が甘くておいしいのは、糖質含有量が非常に高い時期に食べる機会が多いから、ということなのかもしれませんね。
もうひとつ、今回の貝類のグリコーゲン含有量を調べていて面白いことに気付いたのが、石器時代の人類の糖質摂取量についてです。
特に日本のような海のそばに人が多く住む土地の石器時代の場合、ですね。
土壌の酸性度が高いために骨が残りにくい日本では、石器時代の人々の暮らしを知る手がかり(ヒトの骨や食べられた動物の骨)が少ないのですが、唯一そういう人骨や動物の骨が残りやすいのが「貝塚」と呼ばれる遺跡です。
これは狩猟採集生活の人類が取ってきて食べた貝の殻を一か所に集めて捨てていたもの、集落の共同ごみ捨て場です。
そこの土壌が大量の貝殻の石灰質のおかげでアルカリ性に近づき、他の動物の骨や人骨なども保存されやすい場所となっているので、動物の骨や、その近くに埋められた人骨も残っていることがあるのです。
それほどに、その辺の地質を変えるほどにたくさんの貝殻が捨てられていたということはつまり、貝類は常のメインの食材の一つだったと思われます。
その、常の食材である貝類が、季節によっては5~8%もの糖質を含んでいたという事実はちょっと気になりますよね。
糖質を含む植物だって食べていたはずですし、昆虫やエビ・カニも丸ごと食べていた可能性が高いので、トレハロース系の糖質もけっこう摂取していたでしょう。
もちろん、果実が手に入れば喜んで食べたでしょう。
これらの食材のことを考えれば、全カロリー中の10%程度の糖質摂取は、石器時代の人類にとって意外にも普通のことだったのかもしれません。
(⇒アイスマンのいたヨーロッパの山岳地帯では貝類は手に入りにくかったかもしれませんが。)
ということは、もしも私たちが目指すべきが「何万年も続いた旧石器時代の人類の食生活」であるとすれば、ですね。
一日の糖質摂取量を何が何でも5%以下にしようとする、徹底的な糖質オフ生活を目指す必要はないのかもしれません。
釜池先生や荒木先生の主張される5%以下の糖質制限でなくて、江部先生の提示される10%ちょいぐらいの糖質制限の方が、我々日本人には向いているのかもしれませんね。
おまけです。
「食品成分表 2012」のキーワードでAmazonで探してみたらいくつか見つかったのでご紹介。
新食品成分表 FOODS 2012年版
オールガイド食品成分表〈2012〉
手に取ったことはないのですが、どれも大きな変わりはないのではないかなと思います。
いろんな食材について見てみてください、いろんな糖質含有量を見ていろいろ考えると、今回のような面白い考察に結び付くかもしれません。
糖質制限ダイエット ブログランキングへ
旧石器時代に思いをはせるのって楽しいですよね♪
・・・楽しいと言って(^_^;)。
あまないさんからコメントいただきました。
文科省のサイトに「五訂増補日本食品標準成分表」があります。↓
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm
こちらなら無料ですね~。
スポンサードリンク 2012年11月19日 00:38 スポンサードリンク
はじめまして、江部先生のブログを見て、
興味がわき、検索してきました。
貝類にも意外と糖質があるのですね。目から鱗です。
ちなみに文科省のサイトに「五訂増補日本食品標準成分表」があります。↓
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802.htm
これからも、時々来ますのでよろしくお願いします。
江部先生のブログで、カルピンチョ先生が紹介されました。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/
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私のコメントです。
こんにちは
ブログ読者のみなさんへ
カルピンチョ先生のブログの中で、私がまず読んでいただきたいのは。
『インスリンがなかった時代の糖尿病食はどのようなものか?』です。
http://低糖.com/review/cat26/post_79.html
インスリンが1921年に発見される前、アメリカの食事指導は、「糖質制限食」です。
もう90年も前です。先人たちの知恵です。
是非お読みいただき、21世紀現代に、糖尿病の治療薬や手術(はなはだ疑問)が話題になっている愚かさについて、お考えください。
2012/11/19(Mon) 18:47 | URL | 長谷川 | 【編集】
あまないさん
訪問とコメントありがとうございます。
貝類の糖質量、意外ですよね、ぜんぜん気にしてなかったのですけど。
牡蠣鍋食べまくりとかしちゃうとけっこうな糖質摂取してしまうのかもしれません。
文科省のサイト、ありがとうございます。
記事にも紹介しておきますね。
長谷川さん
どうも重ね重ね、過分に紹介いただきましてありがとうございます。
嬉しはずかしです。
そして長谷川さんのおかげで江部先生にもご紹介いただきまして。
さらに頑張ってできるかぎり中身の濃い記事を書かねば(^_^;)。
こんにちは
京都は冷たい雨が降っています。紅葉は見頃をむかえています。
幸田文の著書の中に「父(幸田露伴)は尿糖が出たら、米を一切食べず、酒も飲まないで蒸した大豆ばかり食べていた。」という内容が書かれていました。明治37年生まれの文が子どもの頃の記憶なので、当然インスリンや薬はありません。露伴先生は米や酒(日本酒)が良くないとご存じだったのですね。
露伴が80歳まで長生きしたのも糖質制限をじょうずに行っていたからかもしれません。
また、癇癪持ちだったのは、血糖値の乱高下によるものとも考えられますね。
Mさん
なるほど、幸田文さん、そんなことを書かれていたのですね。
高校生ぐらいの頃に「流れる」?だったかな、短編集を文庫で読んだことがあるきりです。
高校の国語の教科書に載っていた、闇市で死んでいるクルマエビを生きているかのように見せて売っている市場の男と対峙するシーンの表記が印象的で、この人の作品をもっと読みたいと思って手にしたのですが、もはや何も覚えていませんでした。
(あの短編集の中にも幸田露伴さんのことが書かれていたとは思うのですが、まるで思い出せないです。)
幸田露伴さんの食事療法も的を得ていますし、癇癪持ちが低血糖発作によるものかもしれないということ、その松尾さんの指摘も的を得ているのではないかと思います。
昔の小説の登場人物の奇行も、血糖値の乱高下に動かされているのではないかと思われる行動が少なからず発見できるかもしれないですね、青空文庫とか面白そうです。
お返事ありがとうございます。
幸田文さんは結構好きで何冊か読んだのですが、図書館で借りたので細かいところまでは覚えていません。
でも米を食べないで大豆だけというのはしっかり覚えています。
奇行で有名なのは織田信長ですね。飲水病との記録があるので糖尿病だと推定されます。
糖尿病の著名人、歴史上の人物でググったら驚くほど沢山いらっしゃいます。
亡くなられた方は仕方がないですが、ご活躍中の方々はどうか糖質制限を実行していただきたいものです。
Mさん
ありがとうございます。糖尿病の著名人、調査してみます。
歴史上の有名な出来事が糖尿病の症状と関連しているかもしれないと考えると面白いですね。
織田信長がそうなんですか。
たとえば、明智光秀が徳川家康の饗応の宴に用意した食べ物に織田信長が激高したのは低血糖症状がゆえの攻撃性だった、なんてのもあるかもですね。
本能寺の変を引き起こした遠因は2型糖尿病だった、なんて考えると実に興味深いです。