果実で3か月脂肪を貯めて、9か月はケトン体で乗り切るオランウータン
現生人類は20~30万年前にアフリカに出現した数百人の集団に由来するといわれます。
その集団が徐々に数を増やしながら、アフリカを出て世界中に広がっていった。
でも、その現生人類の祖先集団が出る前の時期にすでに人類はほかの霊長類とは全く異なる霊長類として成立していました。
その人類の脳が劇的に脳が発達したのが150万年前から200万年前のころであると化石の研究からわかっています。
石器を使い、草原を走り回っていたころです。
どうしてこの時期に人類の脳は劇的に発達したのでしょう?
それは、森林を離れて草原に進出した人類が、肉食動物の食べ残した肉や骨髄を積極的に食べるようになったからだと推測されています。
石器を使うようになったのも肉食(骨髄食)になったが故であると。
この考えを積極的にサポートするコンセプトをわかりやすく展開したのが島泰三さんの書いた「親指はなぜ太いのか」です。
人の親指が太くてものを持ち、振り下ろすのに適した構造になっているのは、石をもって骨を砕くための進化である。
砕いて割る食料といえば当時の草原にあるのは骨であるとしか考えられない。
骨髄を食べてケトン体を主にエネルギーとする生活を選んだのだ、というわけです。
参考記事
現生人類の進化と食餌 肉食と糖質食のどちらが初期設定に近いのか?
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat12/post_238.html
現世のサルの骨格や食べ物とを比較しながら、人類が骨髄を主な食料として選んだという根拠と理由について説明してくれる「指と歯連合仮説」がとても面白いです。
そんな島泰三さんが2016年に書いた新書がこちらになります。
ヒト―異端のサルの1億年 (中公新書)
今回も面白い。
・・・日本人から〇〇が失われた理由がそれ?そ、その推測はう~ん・・・
と、なんか腑に落ちない部分もありましたが(爆)、
総じて面白かったです。
この本に書かれている内容の中で、特に興味を引いた記述があったので
そのことについてこの記事では触れてみます。
気になった話はオランウータンに関するものです。
スマトラなどに住むオランウータン、大きな大きな霊長類ですね。
By David Arvidsson - originally posted to Flickr as DSC_1055_ApesEat, CC 表示 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7915499
現世人類とは1400万年前に種として分岐した霊長類であると考えられています。
オランウータンの食生活が面白いのですね。
Wikipediaには雑食性であると書かれていますが、オランウータンの食生活には独特の特徴があります。
一年の中で3か月だけ、果実が豊富な時期にそれらをせっせと食べて、脂肪を蓄えるというのですね。
Wikipediaの中にもその記載はあります。
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東南アジアの熱帯雨林では一斉開花と呼ばれる現象があり、数年に1度だけ森の木々が一斉に開花・結実する。一斉開花の年以外は果実生産は低調で、イチジクをのぞくと、ほとんど果実がない時期もある。
特にボルネオ島ではこの果実がない期間が長く、一斉開花の年に「食いだめ」をして体内の脂肪を蓄え、果実が少ない時期はこの脂肪を消費しながら耐えている。一斉開花の年の1日の摂取カロリーはオトナのオスで8000kcal以上になるが、非果実季には4000kcal未満と半分以下に激減する。非果実季には、樹皮や新葉などを食べながらため込んだ脂肪を消費してしのいでいる。
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まるで冬眠する直前のクマのような生活をオランウータンもしているというわけです。
この本の中でもこのことに関して興味深い記述があります。
糖質制限をするものとして実に興味深い。
以下です。
(本文35~36ページより抜粋)
オランウータンの食物選択は、東南アジアの熱帯雨林の果実生産の特性に対応している。そこでは、三か月間の果実の最盛期(マスト・シーズン)の後に「果実の乏しい季節」が続く。ことにボルネオは、アフリカやスマトラの熱帯雨林に比べて果実が少ない森林なので、オランウータンは果実の実る時期にカロリーの高い食物を選んで大量に食べて体内の脂肪として蓄え、果実の少ない時期を乗り切るのである。
オランウータンは人工飼育下では、人間と同じように糖尿など脂肪過多による病気を起こす。野生状態と違って栄養の高い食物を飼育下では与えられ続けるので、オランウータンは糖尿になるのである。一方野生では果実が不足する時期には、オランウータンの尿からケトン体が排出されるが、それはオランウータンがこの季節に体脂肪を消費した証拠だった。
オランウータンの体が大きくなったのは、その体に蓄積する脂肪で果実の不足時期を乗り切るためだったかもしれない。これに対して、小型のサルたちは、脂肪を蓄積しても果実の不足時期を乗り切るほどの量にはならないので、ほかの食物選択をしなくてはならない。
これこそ、類人猿の中でも「ザ・グレイト・エイプス」と呼ばれるほどに大型の類人猿が生まれた理由を解明する一つのカギでもある。
1.オランウータンが果実の最盛期(年に3か月)にはそれを大量に食べて脂肪を蓄えているということ
2.果実を食べていない時期には脂肪を分解して利用し、尿にケトン体が出ているということ
3.動物園で人間に毎日果実などの高栄養のエサを与えられ続けると糖尿病になること
これらの事実が書いてあります。
なんということでしょう!?(ビフォーアフター風に読んでね^^)
果実を主に食べる糖質摂取がとても大事な生き物であると考えられていたオランウータン。
彼らは果実季に果実(とその種子)を積極的に摂取するけれども、糖質エンジンを動かすために食べていたのではないのです。
果実の糖質を集中的に摂取して、体脂肪として蓄えて、それをちびちび使いながら年に9か月はケトン体エンジンで生きる霊長類であったということなのです。
ケトン体がデフォルトの栄養素なんです。
・・・おもしろいですよね。
オランウータンやチンパンジーの食生活を例に上げて、果実を食べる、糖質を食べることの重要性を説く人たちがいます。
「野生の猿を見ろ、毎日果実を食べているから健康でいられるんだ!」
と。
彼らは糖質(果糖)摂取を崇拝し、ケトン体が上昇することを危険だと主張します。
ところがどっこい、
霊長類のオランウータンは一年の大半をケトン体で生きる生物だったというわけです。
オランウータンが糖質を積極的に食べるのは効率よく体脂肪を蓄えるためです。
笑っちゃいますねえ。
さて、人間はどうでしょうか?
人類のエネルギーとして使えるのはブドウ糖とケトン体の二つである。
これは生化学の教科書にも書かれているように昔からわかっていたことです。
しかし、20世紀の後半になってなぜか
1.ブドウ糖=人類のデフォルトのエネルギーで体に良い!
2.ケトン体=アシドーシスを起こす危険な物質で血中に増えたら死んじゃう!!
3.ケトン体がちょっとでも高かったらブドウ糖を投与して下げないと危険!!!
こんな妄想が医療界でも一般社会でもいつのまにか主流になってしまいました。
誤解の原因となったのは糖尿病性ケトアシドーシスという病態です。
おもに1型糖尿病のようにインスリンをほとんど分泌しない状態の方で、高血糖状態が長く続くとアシドーシスになり、すぐに補正しないと命の危険があります。
そしてそのときに血糖値はものすごく高くなっていますが、ケトン体の数値も高くなっています。
そして、
ブドウ糖は試験管の生理食塩水の中で濃度が上がっても溶液は酸性にはなりません。
ケトン体は試験管の水の中で濃度が上がると溶液は酸性になります。
だから、
アシドーシスを引き起こしているのはきっとケトン体だ、ケトン体が悪いはずだ、となっていたわけです。
日本薬学会の解説も以下のように、ケトーシスとケトアシドーシスは同じ状態であるという説明になっています。
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ケトン体
ketone body
脂肪の分解により肝臓で作られ、血液中に放出されるアセトン、アセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸のことをまとめてケトン体という。ケトン体の特徴は(1)水溶性であり,血液中で脂肪酸のように特別な運搬タンパク質を必要としない。(2)TCA回路や呼吸鎖の処理が追いつかないときに,肝臓で合成され,他の臓器に配られる。(3) 骨格筋,心臓,腎臓などでエネルギー源となるが、肝臓では利用出来ない。
体内にケトン体が増加する状態をケトーシス(ケトン症; ketosis)といい、特にアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸は比較的強い酸であるためケトアシドーシス(ケトン体の蓄積により体液のpHが酸性に傾くこと; ketoacidosis)とも呼ばれている。
糖尿病、高脂肪食、絶食(または飢餓)、運動、外傷や大手術など、エネルギー補給のためにブドウ糖や、グリコーゲンのような糖質よりも脂質を利用している際にケトアシドーシスは見られる。一般に腎臓の障害がなければ、ケトン体は血中よりも尿中の濃度の方が高い。糖尿病患者の場合、尿ケトン体が陽性ならば管理状態は不良とされる。肥満者が絶食のような無理な食事制限をした場合や、健常人が激しい運動をした場合にも尿中ケトン体は陽性になる。(2005.12.15 掲載)(2009.1.16 改訂)
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?%E3%82%B1%E3%83%88%E3%83%B3%E4%BD%93
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ケトーシスをケトアシドーシスと同じであるとする根拠となる文献はどこにも示されてません。
でも、考えてみてください。
ケトン体が人間にとってそんなにも体に悪いものなら、オランウータンもやばいですよね。
一年のうちの大半、9か月程度を尿にケトン体が出る状態で過ごすオランウータン、その間はずっと生命の危機だということになりますよね。
ケトアシドーシスで次々に倒れちゃうのが当たり前。
果実のない時期にばたばた倒れて死んで、オランウータンはとうの昔に絶滅しているはずですよね。
ところが、平気で生きてはりますよ(笑)。
By Eleifert - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3913620
最近は密猟もされないから、現地でものんびりしてるみたいです。
いい感じですわ。
ともかくブドウ糖が大事だ、ケトン体が高くなるのは危険だとわめき続ける人たちはぜひ、このあたりの矛盾を説明してほしいなと思います。
おもに果実食でブドウ糖をエネルギーとして生きていると思われていたオランウータンが実はケトン体をメインエネルギーにしていたなんて。
痛烈な皮肉ですよね。
え?
人間とオランウータンを一緒にするな?
オランウータンにとっては問題なくても、人間の体はケトン体に耐えれるようにはできていないに違いない?
ぶはははh(^◇^)
じゃあ、そこのところもぜひ科学的に説明してくださいませ。
人類にとってのケトン体の危険性のことを議論するのですから、
まさか薬剤で膵臓のβ細胞をつぶしたラットの実験データとか持ってきて、
「だからケトン体は危ないんだ!」
なんてことはおっしゃらないですよねえ?
ぶはははh(^◇^)
いつも興味深い考察、ありがとうございます。
下記は、タイプミスと思われます。
一方野生では果実が不足する時期には、オランウータンの尿から果実が排出されるが→ケトン体が排出されるが・・・
当コメントは非表示・削除ください。
愛読者さん
ありがとうございます!!
スタバでコーヒー飲みながらスマホで自分のブログを見て
コーヒー吹いてかけ戻ってきました。
すでにみ、見られていたか(;^ω^)。
なるほどです。
野生の生活では、ケトンエンジンを回す脂肪などの栄養もあまり無いでしょうから、数ヶ月で頑張って体脂肪を増やすのですね。
私は使う予定もないのに、頑張って増やしてましたがw
先日こんな記事を見ました。
「英動物園、サルの餌にバナナ禁止」
https://www.cnn.co.jp/fringe/35042585.html
毛皮の状態や性格も落ち着いたとの事。
ずっと体調が悪かったのだろうなぁと同情してしまいます。
>カーコさん
面白い情報をありがとうございます。
>毛皮の状態や性格も落ち着いたとの事。 ずっと体調が悪かったのだろうなぁと同情してしまいます。
・・・そうですね、現代の子供たちにADHDなどの情動不安定な子供が増えて学級崩壊している原因は糖質過多な食生活にあることを示唆してくれているのかもしれませんね。
このことについて、一作年ぐらいのNHKスペシャルのアマゾンの特集で気になることがあって、ずっと心に引っかかっていたので、くっつけて記事ネタにさせていただきます、ありがとうございます。
というか、このCNNのニュースは以前にも見ていたし、ここで誰かに教えていただいたような気もするのですが、今までアマゾンの話と結びついていませんでした。
時間かかるなあ。(;^ω^)
>私は使う予定もないのに、頑張って増やしてましたがw
・・・同じくです(*´Д`)
前回の(5/6のスレッド)も含め大変興味深く読ませていただいております。現代の(日本、または身近の)人間における食生活の現状が、今までに無い糖質過多な食生活であるというのはよく理解しましたが、それに浸りきっている我々が「この状況はイレギュラーなのであって本来はありえないことなのだ」と言われてもなかなか脱却できない、普通に外食すれば糖質たっぷりなメニューだらけですし、一般に意識されている食事といえば糖質だらけなわけですね。
そこからいかに脱却するか、本当に難しいと思わされます。
ひろ@福岡市東区(54歳)と申します。
福岡市で健康診断を受けたところ「健康みらい予報」という書類が来まして「今のままで10年過ごすと、同性同年代の平均と比べて、糖尿病を発症する危険度が0.5倍という未来予想がなされました。で、基礎データは久山町の疫学研究を元にしているとの事でした。
発行元の話では「空腹時血糖値」が100を超えた受診者に送付しているとの事。
この予想値の数値は「めやす的」に捉えればいいレベルの話なのかな?と思いながらあちこちのサイトをチェックしました。
自分の感想としては「なかなか数値的に明瞭に未来予想をする」のは難しい事なのでないかと思いました。
追伸:自分も糖質ダイエットをして68→61(半年)の経験があります。今はちょっとリバウンドしてしまって66なので、また引き締めようかな?と言う感じです。
>karehaさん
>普通に外食すれば糖質たっぷりなメニューだらけですし、一般に意識されている食事といえば糖質だらけなわけですね。 そこからいかに脱却するか、本当に難しいと思わされます。
・・・アルコールやタバコが批判を受け、摂取が縮小していくのにも時間がかかりました。
ましてや子供が食べてもパッと見には健康被害が見えない糖質ですから、なかなか難しいですよね、糖質摂取を控えていることを体に悪いからやめろとおせっかいやいてくる人もたくさんいますし(本人はそう信じているから余計にめんどくさい)、黙々とやっていく努力はなお必要です。
だとしても、2012年ころに比べれば天と地ほどの差があります。
遠からず、糖質の害が大勢の人に認められる日が来ると思いますよ。
>ひろさん
>福岡市で健康診断を受けたところ「健康みらい予報」という書類が来まして「今のままで10年過ごすと、同性同年代の平均と比べて、糖尿病を発症する危険度が0.5倍という未来予想がなされました。で、基礎データは久山町の疫学研究を元にしているとの事でした。
・・・久山町スタディを有効に活用しているのですね。久山町スタディは住民全員の健康状態を数十年にわたって追跡したデータですから信頼性は高いです。
久山町の住人のような食生活を今後、ひろさんが続けていった場合には、数値が基準値に収まっている人に比べて1.5倍糖尿病を発症しやすいということですね。
食生活が久山町の人と全然異なればよいことですから、ぜひ、これから糖質制限をまた続けてみてください。
やせることよりも食後高血糖にならないことを目標に、ゆるめでぜひ。
>・・・そうですね、現代の子供たちにADHDなどの情動不安定な子供が増えて学級崩壊している原因は糖質過多な食生活にあることを示唆してくれているのかもしれませんね。
かるぴんちょ先生
もう、お邪魔いたしません、と公言したのにすいません。どうしても気になったので。
上記は本当ですか?
実は、私は最近ですがADHDと診断されました。
主治医は、糖質との関係などなにも説明してくれません。
ただ、コンサータを処方するだけです。
頑張って、スーパー糖質制限続けます。
前回のようなことは、もういたしませんので、よろしくお願い申し上げます。どうか、見捨てないでください。
>きりこさん
コメントありがとうございます、見捨てるも何も、厳しいことを書いて申し訳ありませんでした。
けっこう時間をかけて考えて無核赤血球や脳の話を書いたのに、誰からも反応なく(´;ω;`)ウッ…
スルーされているところだったのでケチ付けてしまいました、ごめんなさい。
>上記は本当ですか? 実は、私は最近ですがADHDと診断されました。 主治医は、糖質との関係などなにも説明してくれません。 ただ、コンサータを処方するだけです。
・・・三島先生の本や、宗田先生の本を読んでいただくと、あるいは江部先生のブログのコメントなどをつぶさに見ていただくと、子供に糖質制限させて、あるいはケトン食を食べさせて情動が安定してきた話がたくさんあります。
機能性低血糖(あるいは反応性低血糖)の症状はADHDに似た部分がありますので、大人でも糖質制限を実践して症状が改善するかどうかを確認することは重要だと考えています。
ぜひ、糖質制限を続けて試してみてください、問題が起きない範囲で。
改善しないなあと思うのであれば無理しないで薬の力も利用してくださいね。