ケトーシスとケトアシドーシスの違いは何か? その2
前の記事ではケトーシスについて説明しました、ここではケトアシドーシスについて説明します。
ケトアシドーシスとは、血液中にケトン体がたくさん増えて、それが炭酸イオンのバッファー機能によって補正しきれなくなり、血液が酸性に変わってしまった状態を指します。
「コントロール不能になったケトーシス」と考えていただければいいです。
これはどういう状況で起こるのでしょうか?
ふつう、断食や、糖質制限食ではケトアシドーシスは発生しません。
そんなことでケトアシドーシスが発生するのであれば、石器時代の天候不順の時に、人類は生き延びることができませんよね。
断食しているお坊さん、つわりで何も食べられない妊婦さん。
そう言う人たちが簡単にケトアシドーシスになったら・・・人類は滅びますよね。
そう言うことは起きていません、人類はそう簡単に滅びるわけにはいかないのです。
では、どういうときに、ケトーシスがケトアシドーシスになってしまうのでしょうか?
それはケトーシスに病気や病的な状態が合併した時です。
一番わかりやすいのは1型糖尿病の合併です。
1型糖尿病というのはみなさまご存知の通り、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞という、インスリンを作り出す細胞が自己免疫疾患などで破壊されてしまった病気です。
この状態では、患者さんの体内にインスリンが一切ありません。
インスリンがないと、糖の取り込みが適切に出来なくなるので命にかかわります、このために患者さんは定期的にインスリンを打ちますよね。
ただし、インスリンの分泌は、食餌で糖を食べたときだけに分泌されるわけではありません。
基礎分泌と言って、常に低い量のインスリン分泌は持続しています(ずっと同じではなくて日内変動はあります)。
これによって我々の身体の様々な機能は調節されています。
ここのところも重大なので、この機能を代替するために、1型糖尿病の患者さんは持続型の基礎インスリンも打ちます。
何らかの事情でこのインスリンを打たなかったとしたらどうなるでしょうか?
食後に必要なインスリンの量は、厳しい糖質制限をすることである程度はコントロールできます。
でも、基礎分泌量のインスリンさえも注射できない事態が訪れたときには、1型糖尿病の患者さんをケトアシドーシスの状態に引きずり込むような緊急事態が発生します。
その緊急事態とは何か?
「脱水」です。
実は基礎分泌量のインスリンが果たしている役目は複数あります。
ひとつは安定した量のブドウ糖取り込み受容体GLUTを細胞表面に発現するという役目、これがないと細胞はブドウ糖不足に陥りますので、糖新生への指令を出します。
その糖新生への指令に抑制シグナルを与えているのもインスリンなので、インスリンがない状態では糖新生は亢進します。
これにより、血糖値はどんどん上がっていき、ブドウ糖でどろどろになりますし、脂肪酸の分解も活発に行われますのでケトン体も増えます。。
このときに腎臓でも問題が起こります。
腎臓では血液をろ過して尿を作るのですが、通常の状態では尿の中に漏れこんだ糖を再吸収して回収します。
ところが血糖値が高いと再吸収できなくなります。
再吸収できなくなると、尿にたくさんの糖が含まれます。
この状態になると、尿の浸透圧が高いために、水分も尿に引っ張られてしまいます。(浸透圧利尿)
すると、血液量は減りますよね、脱水状態になります。
脱水が起こってしまうと、相対的に血糖値もケトン値も上がりますよね、そうなると、炭酸イオンバッファーによる血液の適正なpHの維持が不可能になるのです。
すでにケトーシス状態にあった場合、ケトン体による影響で血液は急速に酸性に傾きます。
かくしてケトアシドーシスが発生するのです。
そしてお気づきだと思いますが、「脱水」はなにもインスリン注射をしなかったときだけに起こるものではありません。
脱水は、病気やけがによっても起こり得ますよね。
1型糖尿病の人や重症の1型糖尿病の人で「シックデイ」の対処が重要視されるのもこれが理由です。
インスリン分泌量の少ない状態では、もともとケトン体は高くなりやすい上に高血糖になりやすい。
こういう人で感染症に伴って度重なる嘔吐や下痢で脱水が起こると、血液のバッファー機能はコントロール能力を失い、わずか半日でケトアシドーシスに陥ってしまうのです。
また、ケトアシドーシスは糖尿病以外の原因でも起こり得ます。
薬物中毒であったり、大量の清涼飲料水をがぶ飲みして起こるペットボトル症候群などもケトアシドーシスの原因の一つです。
嘔吐や下痢を繰り返すような疾患で、水分補給もできない状態が長く続き、輸液もしなければ、感染症や妊娠初期のつわりでも、陥る可能性はあります。
(1型糖尿病の場合に比べれば、進行はずっと緩徐です。)
糖質制限ダイエット ブログランキングへ
逆に言えば、こういう風に、何らかの病的な出来事が合併してない限り、ケトーシスがケトアシドーシスに陥ることはないのです。
ケトーシスは怖がる必要のないない、生理的状況なのです。
ケトーシスを絶対避けるべきだというのなら、すべての女性は妊娠を絶対避けるべきだ、という極論になります(笑)。
スポンサードリンク 2013年2月 2日 20:30 スポンサードリンク
カルピンチョ先生!
今回の説明もとても分かりやすいでーす!
ケトーシス(健康体)⇒ケトアシドーシスは病体が非常事態にならないと起こらないんですね〜。
『腎臓の働き』「脱水」「炭酸イオン」ここでも出できますね!
個人的にバラバラでとりとめなかつた部分が整理できました。
『バッファー機能』調べまーす!
何度か投稿させて頂きましたpygmalionです。
低糖質食を始めて半年。HbA1cで5.6%を維持できることが分かり、
3剤併用していた糖尿病治療薬すべてを今年から休薬できました。
ありがたいことです。
ただ痛風だけは依然として心配で、尿酸値7.0と高止まりしています。
薬も飲んでいますが、起床時など軽い痛みに見舞われることがあります。
この半年で体重は25kgほど減りました。
昨年、なぜ低糖質食はかくも効果的に減量できるのかと
質問させて頂きました。今回の記事で少しその点に触れていたので、
いつか先生のお考えが聞けるかも、と思っております。
最近、平熱の低下に気づきました。
低糖質食を始めた頃に比べて0.5-0.7度ほど下がっています。
とくに寒さの厳しい日は、重ね着をして布団に入って暖かい状態で
計測しても36.0度に届かないほどです。
エネルギー不足で恒温機能が低下し、プチ冬眠(?)に入るのかも知れません。
厚着をしないといられませんが、体が動かないようなことはありません。
ただ基礎代謝は大きく減っているでしょうね。
これが半年経過で減量にブレーキがかかる理由かも知れないと思っています。
寒くてたまらないので、スキー以外では生まれて初めて
長袖の肌着とモモヒキを購入しました。
オヤジ臭いと自嘲しつつ、もう、これなしではいられません。
人間はこうして何かを失っていくんでしょうね。(遠い目)
最近の記事、少し難解な部分もありますが、病理とはこういうことなのかと
勝手に想像しながら興味を持って読ませて頂いています。
書きかけも多数あるとのことで、今後も楽しみにしております。
ちょっと記事に関係ないコメントですみませんが
ちょっと書かせてください。
決して宣伝ではないですといっても
宣伝ではないはずもないんですが(笑)^^;
長い間 放置していたブログを再開させました。
といっても カルビンチョ先生のような立派なブログではありません。
なんだか低レベルななんについてのブログかもわからない
強いていえば、私はこんな人間だよって感じの
誰も見てないブログです(爆)^^;
ですが 糖質制限を始めて 先生のブログにたどり着いてやり取りしたのが
きっかけで また再開しようかなと思った次第ですので・・・
http://tosan.s376.xrea.com/x/korobbs.cgi
http://tosan.jugem.jp/
二つありますが
お暇なときに遊びに来ていただけたらって
お暇はないですね(笑)。
まあ、続くかどうかもわかりませんので(常習犯^^;)
失礼しましたm(_ _)m
妊娠避けたら 人類は滅びます。
そんなことにならないように・・
ナオさん
そうですね、ケトアシドーシスが起こるのは病的な状態です。
ただし1型糖尿病の人や、インスリン分泌能力が枯渇した2型糖尿病の方では、普通の人ならなんてことない病気で一気にそちらに転げていく可能性があるのは事実です。
その意味からすると、そういう方々はケトーシスにできるだけ陥ることのないぎりぎりの状態での糖質制限が安全ではありますよね。(山田先生の観察だとバーンスタイン先生もそうされてるようですし。)
だからといって耐糖能異常程度の人には、そこまで厳密な制限はいらないだろうと思うし。
人それぞれなんですよね。
その意味では自分で調べて理解して自分の判断で食べるものを決める、ナオさんの態度は理想的です。
pygmalionさん
おひさしぶりです。
半年で25kg!HbA1cが5.6%
すばらしく順調ですね。
尿酸は7.0ですか。
HbA1cと尿酸、年末に私は4.7と7.2でした。。。(^_^;)
なぜかくも効率よく痩せることができるのか?
の、疑問なんですが、逆のような感じもしています。
糖質制限をしている今の我々の体格や体調の方がその人個人の持つ「初期設定値(年齢相応の)」
であるだけであって、
「糖質摂取はなぜにかくも効率よく肥満するのか?」
というところの方が問題にすべきなのではないのかなと。
私も痩せてから、冬場の寝つきがちょっと辛くなりました。
肥っていたころには冬の冷たいふとんでも入って5分もすれば温もってきて10分もたたずに爆睡できていましたが、最近は部屋とふとんが冷えていると30分ぐらいは寝れません(^_^;)。
皮下脂肪の量が違うので蓄熱の効率は全く違うと思います。
あと、言いたくないけど、年齢相応に基礎代謝は落ちてきますからねえ。
toさん
今すぐにではありませんが遊びに行かせてもらいます。
ぜひ継続されてくださいね♪
わかりやすいご説明ありがとうございました。CDEJの取得を目指し勉強している者ですが、大変興味深く拝見させていただきました。本題から離れた内容になるかもしれませんが、質問させてください。
例えば、(このような状況はないと思いますが)インスリンが食後作用のものと、持続型どちらか一方しか選べない時は、持続型を優先させた方が良いのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
PANさん
食事は糖質制限食ということでお答えします。
どちらか一方しか選べない状態で1型糖尿病の方の場合、持続型優先でよいと思います。
もちろん、こまめな血糖チェックとそれに合わせた糖質負荷(ごく少量)による微調整は必要になるかと思います。
その辺に関しては「バーンスタイン博士の糖尿病の解決」に詳しく記されています。
糖質制限中の医師です。
糖質制限を広めるにあたってケトーシスのリスクについて他人にうまく説明することができず悩んでおりました。
ケトアシドーシスとケトーシスを脱水というキーワードでご説明されたのはとてもわかり易かったです。脱水が起こることによってケトーシスが代償不能な状態に陥って、アシドーシスを来すということですね。
その場合気になるのは、糖質制限をしている人は、脱水によるケトアシドーシスのリスクが高いということになるでしょうか。
>ただし1型糖尿病の人や、インスリン分泌能力が枯渇した2型糖尿病の方では、普通の人ならなんてことない病気で一気にそちらに転げていく可能性があるのは事実です。
>その意味からすると、そういう方々はケトーシスにできるだけ陥ることのないぎりぎりの状態での糖質制限が安全ではありますよね。(山田先生の観察だとバーンスタイン先生もそうされてるようですし。)
例えば妊婦に糖質制限を行った場合、悪阻による嘔吐によって容易に脱水が起こります。
糖質制限者は通常の人よりも脱水に気をつける必要があると思われました。
kamさん
参考にしていただけたのであれば何よりです、ぜひご利用ください。
>例えば妊婦に糖質制限を行った場合、悪阻による嘔吐によって容易に脱水が起こります。 糖質制限者は通常の人よりも脱水に気をつける必要があると思われました。
そうですね、水分を十分に摂取するのは非常に重要だと思っています。
妊婦さんの悪阻に関して言えば、妊娠する前から長い間糖質制限を続けている人はひょっとして悪阻そのものもほとんどないか、ごく軽いのではないかとも想像しています。
そうでないと、石器時代には妊婦さんがバタバタとケトアシドーシスで倒れていた可能性が高いですからね。(^^;)