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新世界より でんぷんより果物を選んだ結果


ほとんどの哺乳類では、でんぷんを分解する消化酵素であるアミラーゼは膵臓からしか分泌されません。

狼が犬に進化した時も膵臓のでんぷん処理機能が上がっただけという話でしたね。

ところが、人類の祖先を含む猿の一部では、偶然、唾液腺にアミラーゼが出るようになりました。


これによって、彼らは穀物や球根の価値がよくわかりました。

穀物の種子や球根やドングリなどの堅果が栄養として理想的な甘い物質(糖質)を豊富に含む優れた食べ物であるとわかったのです。

ということは、人間の爆発的な進化の立役者の一人はアミラーゼ遺伝子のそばに飛び込んだレトロトランスポゾンかもしれないのです。

なぜならば・・・




この根拠について触れるにあたり、まず、サルの進化と分類について述べておきます。

猿属は、大きく、旧世界猿と新世界猿に分かれます。

ちょっと誤解されやすいのですが、人間が含まれるのが旧世界猿です。

この場合の新世界猿というのはアメリカ大陸固有のサルたちを指します。

ドボルザークが交響曲の「新世界より」でイメージしたアメリカ、そのアメリカで独自に進化を遂げたサルたちが新世界猿なのですね。


もちろん、旧世界猿と新世界猿の祖先は共通する猿属です。

この両者が分かれてそれぞれに進化するようになったのが、アメリカ大陸とユーラシア大陸が完全に切り離された3000~4000万年前だと考えられています。


それ以降、旧世界猿には類人猿、そしてヒトが生まれます。

アメリカ大陸の新世界猿にはヒト属こそ生まれませんでしたが、オマキザルという、類人猿なみに知能の高いとされる猿が生まれます。

(実際、彼らは道具を使うことで知られています。)

397px-Cebus_apella_01.jpg
フサオマキザル画像 Wikipediaより


別々の世界のサルですが、それぞれの猿たちを分類していくと、似たような進化の系統樹を追うことができます。

収斂進化と言ってもいいでしょう。


収斂進化(しゅうれんしんか)とは、複数の異なるグループの生物が、同様の生態的地位についたときに、系統に関わらず身体的特徴が似通った姿に進化する現象のことです。イルカとイクチオサウルスの例が有名ですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%8E%E6%96%82%E9%80%B2%E5%8C%96


ということで、3000万年前以上に分かれた新世界猿と旧世界猿は、住む場所が分かれた後も、似たような環境に適応することで同じような進化を遂げてきた生き物であることをご理解ください。

分かれた後もよく似たような進化を遂げているわけですから、現存する猿属は、地球上で生活していく上で最も適した姿に進化しているのだと考えることができます。

そして、新世界猿と旧世界猿、ともにそう言う進化に必要な遺伝子配列変化として蓄積されたものは似ているはずです。


でも、両者の進化の最終段階には決定的な違いが存在します。

新世界猿からは人類が生まれなかったのです。

それはなぜでしょうか?



・・・ここからは私の夢想が混じっていることをあらかじめお断りしておきます。



この新世界猿なんですが、実は彼らは唾液腺アミラーゼを持っていません。

この図を見てください、これは新世界猿と旧世界猿の分岐や類人猿の出現、それとアミラーゼ遺伝子の変化を表した図です。


amylase.png

Amylase Gene Structures in Primates: Retroposon Insertions and Promoter Evolution
Linda C. Samuelson, Ruth S. Phillips, and Lisa J. Swanberg
Mol. Bid Ed 13(6):767-779. 1996

唾液腺アミラーゼが出るようになるのは、旧世界と新世界に猿たちが分かれた後、類人猿が出現するまでの途中のどこかです。

(図中でRetroviral Insertionと書いてある時点です)


新世界にもオマキザルのように、類人猿に迫るような非常に知能の高いサルも出現しています。

でも、そこまでです。

新世界に人類は生まれませんでした。


その理由の一つが、新世界猿は唾液腺にアミラーゼを持たないことなのではないかと私は思うのです。



新世界猿の唾液腺にはでんぷんを糖質に変える酵素は含まれていないので、でんぷん質に含まれる甘味がわかりません。

つまり、彼らには穀物などのでんぷん質豊富な植物の価値の高さが理解できませんでした。

基本的に、穀物、球根、あるいはドングリなどの堅果に彼らは興味を示しませんでした。

そして、ダイレクトに糖を摂取できる果実であったり、小動物や昆虫をとらえてタンパク質や脂肪を食べる生活を継続します。


でんぷん質は加熱したり、酵素で分解しない限り、そこから栄養を摂取するのが難しい物質です。

(コメや小麦を生で食べてもおいしくないですよね)

動物だけでなく、細菌も容易に手を出せません。

だから、穀物や球根や堅果を食べる動物はそれを長期保存することが可能になります。

蓄積に支えられた生活にはゆとりが生まれます。

さらに、脳神経活動に適した栄養素である糖質を年間を通じて安定的に摂取し続けることで、脳神経の活動は活発化します。


一方、甘い果物には既に分解された状態の果糖が豊富に含まれています。

それは動物にとっても細菌にとっても格好の栄養素ですから、糖質の多い植物は長期保存できません。

つまり、それを主食にする生物はその日その日に新鮮な果物を採取しなくてはなりません。

その生活にゆとりはありませんし、果物が豊富な時期は限られているので、糖質を安定的に摂取することもできません。

糖新生を繰り返しながら、同時に季節が悪くて餓えと戦っているときにはしばしば低血糖状態が誘導されることもあり得ます。

脳神経の活動の発達するスピードも、その日暮らしの食糧事情のせいで頭打ちです。

495px-Capuchin_monkeys_sharing.jpg

その結果、彼ら「新世界猿」も「類人猿」近くのレベルまでは進化できたのですが、そこまでだったのです。

そこから先、「高度な知能を持つ人間のレベルまでの進化」は進まなかった(人類と同じ期間では進まなかった)のではないかと思うのです。


つまり、類人猿から人類へとの進化を支えた立役者の一つが

「でんぷんは糖質である」

ということを悟らせてくれた唾液腺アミラーゼだったのではないかということです。


(以上、全てカルピンチョの勝手な夢想であることをお断りしておきます)


んで、長いので、さらに次の記事へ続きます。


進化をやめたボノボたち

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2013年9月19日 06:35

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