糖質制限しても早朝空腹時血糖が高い・・・暁現象とソモジー効果
糖質制限してHbA1cは下がったのに早朝空腹時血糖が高くなってきたという方から質問コメントをいただきました。
>スーパー糖質制限の甲斐があってNGSP値でHbA1cは、1月から3月と
>7,9% → 7,3% → 6,7%
>この間、インスリン単位量は同じです。
>今でも、早朝空腹時血糖値は190余りなので4月の診察では、さらなる増量をお願いしようと思ってます。
この方の身体では、いったい何が起こっているのでしょうか?
コメント内容は以下に全文を転載しました。
回答となる考察を続けて書きますね。
*****
はじめまして。
糖尿病歴(インシュリン接種歴)24年のひろと言います。
スーパー糖質制限歴2カ月半になります。
インシュリンノボラピッド30ミックス注を
朝22単位、夕22単位打ってます。
糖質制限後、減るかと思いきや減るばかりか増加の傾向です。
さすが、スーパー糖質制限の甲斐があって
NGSP値でHbA1cは、1月から3月と
7,9% → 7,3% → 6,7%
と良くなっています。
食後血糖値が安定しているのだから当たり前と言えば
当たり前ですが。
この間、インスリン単位量は同じです。
今でも、早朝空腹時血糖値は190余りなので
4月の診察では、さらなる増量をお願いしようと
思ってます。
私、身長162cm、体重81kgなのです。
体重が減らないのも悩みなのですが、
インスリンの量が減らないのも悩みです。
そんなこともあるのでしょうか。
お酒を飲んだ時に関しては、肝臓が、糖がアルコールを
分解するのに利用しているのか、空腹時血糖値は
明らかに低いです。
それでも、135くらいです。
なにか、助けにならないかと思って投稿してます。
なにとぞ、よろしくお願いします。
コメント投稿者: ひろ
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糖質60%の食事をしていた方が糖質制限すると、食事に由来する血糖の上昇は消えます。
インスリン追加分泌が必要な状況が減りますので、それまでに投与していたインスリン投与量を変更しなかった場合、インスリンが効きすぎる状況が発生すると考えられます。
にもかかわらず、この方では血糖値が上昇している、インスリンをむしろ上げなくてはならない状況が発生している、と、おっしゃるわけです。
それ、危険な考え方だと思います。
この方が1型なのか2型なのかで回答記事の内容を微妙に変える必要が出てくるので、どちらであるかをお尋ねしたのですが、回答が得られないままに日にちが経過したので、2型糖尿病の方であると勝手に判断して回答させていただきます。
結論を先に書くと、この方の早朝空腹時血糖上昇は「ソモジー効果」ではないかと思われ、であるとすれば「現在使用中のインスリンを増量すべきではない」と考えられます。
それよりも投与するインスリンのタイプを変えるべきです。
まず、早朝空腹時血糖の上昇がなぜ起こるのかについての説明から始めます。
これは、糖尿病の人に認められる「暁現象」、または「ソモジー効果」と呼ばれる、糖新生による血糖値の上昇であると考えられます。
これらは別々のメカニズムで発生する高血糖であり、全く異なる対処が必要です。
「暁現象」
こちらは、明け方から朝のうちに糖新生が亢進してしまう現象を指します。
就寝から8時間ぐらい、ちょうど明け方頃に
1.肝臓でのインスリンの分解がもっとも進み、
2.同時にコルチゾール産生による糖新生の亢進が発生する、
これらの効果により、我々の身体は血糖値を上げる方向に調整されます。
概日リズム(一日の中の時刻に応じた反応)のホルモン分泌がこれを誘導すると言われます。
就寝後2~3時間で分泌される成長ホルモンの濃度上昇なども、寝ている間に起こる様々なホルモン動態のひとつですね。
この時に、
3-1.膵臓でのインスリン分泌機能が正常な方の場合、糖新生開始に合わせて新しく分泌されたインスリンにより、血糖値上昇が正常範囲内で抑えられます。
3-2.インスリン分泌機能が低い方の場合(つまり1型糖尿病の方や2型糖尿病でもインスリン分泌機能が落ちている方の場合)、インスリンが足りていないので血糖上昇を抑え込めません。
ですから、もしも「暁現象」に起因する早朝高血糖がある場合には、
1.ランタスなどの長期作動型インスリンの就寝前投与量を増やす。
2.糖質制限で膵臓機能が回復して自分のインスリン分泌能力が上がるのを待つ、あるいは痩せてインスリン抵抗性が下がるのを待つ。
3.運動により筋肉を増やし、糖質取り込みの受け皿を増やす。
4.SGLT2阻害剤投与で余分な血糖を尿中に逃がす。
などの対処方法が考えられます。
「ソモジー効果」
こちらは、低血糖に対するフィードバックで糖新生が亢進している状況を指します。
糖尿病の方で、
1.就寝前に投与するインスリンが効きすぎている、
あるいは
2.糖質制限食を開始したが、糖質摂取時とインスリン投与量を変えていない、
それらの場合、インスリンの効果が過剰になり、就寝後数時間で低血糖状態に陥ります。
低血糖という命の危機から脱するために副腎皮質でコルチゾールが産生され、肝臓での糖新生が亢進するというわけです。
ですから、「ソモジー効果」に起因する早朝高血糖がある場合には、
1.就寝前のインスリン投与量を減らすか、種類を変更する(特にミックス型などを投与している人では長期作動型のみに変更する方が望ましい)。
2.一日の血糖値の変動を再測定して、それに見合ったインスリン投与に変更(種類と量、投与時刻のすべてについて)する。
などの対処方法が考えられます。
このように、早朝高血糖の原因が「暁現象」なのか「ソモジー効果」なのかで対処方法は異なります。
投稿くださったひろさんの場合、ソモジー効果であるように私には思えます。
というのも、HbA1cは6.7%にまで下がっているからです。
ADAの発表した計算式
推定平均血糖値(mg/dl)=28.7×HbA1c(%)-46.7
に当てはめると、ひろさんの推定平均血糖値は145.59mg/dlです。
朝の血糖値が190mg/dl、飲酒時の血糖値は低め、それでも135mg/dlだ、というのなら、どこかでもっとぐっと血糖値が低い状況が起こっていないとおかしいわけです。
深夜を含めたどこかで低血糖が起こっている可能性が高いと私には思われるのです。
だから低血糖の反動のソモジー効果が起こっていると推測できるというわけです。
ですが、ソモジー効果なのかどうかを確認するためには、ひろさんご自身が夜中に血糖値測定をして確認する必要があります。
午前0時に就寝するとして、午前3時ごろに血糖を測定してみてください。
そのときに血糖が標準値であるか、高ければ「暁現象」です。
そのときに血糖が低血糖であれば、「ソモジー効果」です。
どちらが原因であるのかを確認した上での対処をお願いします。
いたずらにミックスインスリンの量を増やすことはぜひおやめください。
もしもソモジー効果に対してミックスインスリンを増量してしまうと、低血糖がさらに強く起こる可能性がありますし、早朝高血糖はさらにひどくなると思われます。
危険です。
また、ひろさんがご使用のインシュリンノボラピッド30ミックス注というのは「超速効型インスリンアナログと中間型インスリンアナログを3:7の割合で含む混合製剤」であり、これは私、糖質制限している人にはお勧めしません。
暁現象やソモジー効果を引き起こしやすいインスリン製剤であると考えます。
ランタスなどの「持効型溶解インスリンアナログ製剤」を中心に考えていくのが良いと思うのです。
主治医の先生のご意見もおありでしょうけれども、糖質制限していることを説明して相談されてみてください。
関連して、糖質制限をしても肥満が解消しないのも気にされていますが、「投与されているインスリンが適切でない」ことは原因の一つである可能性があります。
インスリンは糖質を取り込んで脂肪に変える作用があります、これが過剰に働くとどうしても太りやすくなります。
適切な種類と量のインスリンに変更できれば、その問題も解決してくるのではないでしょうか。
ともかく、まずは、ぜひ、深夜の血糖測定、やってみてください。
今回の記事を書くにあたり参考にしたサイト、ページ、本、ジャーナルは以下のものです。
中でもトップに上げた「たまき」先生の記事が秀逸ですよ、ぜひご覧あれ。
暁現象・ソモジー効果を見破れ!3:00の血糖値を測ってストレスのない眠りを確保。
2010-07-16 18:17:09
http://ameblo.jp/islets/entry-10592325944.html
暁現象とソモギー効果
http://www.kumei.ne.jp/kumei/dm/dm58.htm
避けたい朝の高血糖......糖尿病の暁現象の対処法
http://allabout.co.jp/gm/gc/376483/
江部先生のブログの「暁現象」のカテゴリ
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-category-85.html
No.19 暁現象とソモジー効果(2008年10月発行)
東京女子医科大学糖尿病センター 馬場園 哲也
http://www.club-dm.jp/novocare_smile/zoom19-1.php
●暁現象
【あかつき・げんしょう】(症状名)
(英:Dawn Phenomenon)
[類→ソモジー効果]
http://www.joho-kyoto.or.jp/~iddm-net/HTML/DIC/Main/A/a003.html
●ソモジー効果
【そもじー・こうか】(一般名)
英:Somogyi Phenomenon
http://www.joho-kyoto.or.jp/~iddm-net/HTML/DIC/Main/SO/so002.html
HbA1cから自分の平均血糖値を知る方法
http://allabout.co.jp/gm/gc/302365/
参考図書
バーンスタイン医師の糖尿病の解決 第4章
参考文献
The dawn phenomenon and the Somogyi effect two phenomena of morning hyperglycaemia
Endokrynologia Polska/Polish Journal of Endocrinology
Tom/Volume 62; Numer/Number 3/2011
http://czasopisma.viamedica.pl/ep/article/view/25278/20107
この参考文献はポーランド内分泌学会が大学院生教育目的で学会誌の巻末に掲載した総説で、暁現象とソモジー効果のわかりやすい対比図もあり、理解しやすいです。
幸いにポーランド語ではなくて英語です。
スポンサードリンク 2014年4月 3日 22:17 スポンサードリンク
カルピンチョ先生
おはようございます。
今回の記事も、大変参考になりました。
ありがとうございます。
質問ですが
糖質制限をしながら、やむを得ずインスリンを使う場合は
ランタスなどの持続型(基礎分泌の補助)をメインにして、ノポラピッドなどの速攻型(追加分泌)は、少なめにということでしょうか。
バーンスタイン先生は、「糖尿病の解決」の中で
P208
大量のインスリンを分割すること
「何度かの試行錯誤の末、私が成人に希望する1回の最大注射量は7単位(小児ではもっと少ない)という結論に達した」したがって、インスリン抵抗性の患者が20
単位のグラルギンを就寝s
>インシュリンノボラピッド30ミックス注というのは「超速効型インスリンアナログと中間型インスリンアナログを3:7の割合で含む混合製剤」であり、これは私、糖質制限している人にはお勧めしません。
暁現象やソモジー効果を引き起こしやすいインスリン製剤であると考えます。
ランタスなどの「持効型溶解インスリンアナログ製剤」を中心に考えていくのが良いと思うのです。
【途中で発信してしまいました】
したがって、インスリン抵抗性の患者が20単位のグラルギンを就寝時に必要とする場合は、私は、7,7,6単位に3分割したインスリンを3か所に同じ注射器で打つように指導する。
P213
外で食事するときに、最速攻型インスリンを使うこと
と書いています。
* * * * * * * * *
「混合製剤・ノボラピッド30ミックス」ではなく、基礎・追加、それぞれ2種類の(例えば レベミル・ノポラピッドの単体)のインスリンを使って調整するのが良いと言う事でしょうか。
私の友人も、インシュリンノボラピッド30ミックス注を、朝12単位。夜18単位打っています。
彼は、糖質制限して、2ヶ月になり、食前・食後250から300あった血糖値が、120から180に収まってきたので、低血糖を避けるため、インスリンの量を減らすよう話していたところです・・・
長谷川
わんわんさん
ミックス型に入っている中間型インスリンは2時間後に血中濃度のピークが来ます、これはまさしくソモジー効果の原因になりやすいはずです。
もちろん、糖質を摂取している糖尿病の人は、食後高血糖がありますので、そのころにピークが来るのでちょうどいい、問題ないかと思います。
ですが、糖質制限すれば食後血糖のピークはないのですから、インスリン血中濃度もピークのない、安定的に出るアナログが望ましいです。
その意味では24時間作動型のランタスなどを基本にして、急な血糖上昇の時だけに対して超即効型を使う、中間型は使わない、というのが安全だと思います。
自分だったらそうします。
でも、血糖値変動には個人差がありますから、主治医の方と相談の上で、様子を見ながら持続効果型に身長に変更していくのがいいでしょうね。
参考までにランタスの添付文書から
用法及び用量に関連する使用上の注意
中間型又は持続型インスリン製剤から本剤に変更する場合
以下を参考に本剤の投与を開始し、その後の患者の状態に応じて用量を増減するなど、本剤の作用特性[【薬物動態】の項参照]を考慮の上慎重に行うこと。
1日1回投与の中間型又は持続型インスリン製剤から本剤に変更する場合、通常初期用量は、中間型又は持続型インスリン製剤の1日投与量と同単位を目安として投与を開始する。
1日2回投与の中間型インスリン製剤から本剤への切り替えに関しては、国内では使用経験がない。[【臨床成績】の項3.参照]
中間型インスリン製剤から本剤への切り替え直後に低血糖があらわれたので[【臨床成績】の項1.参照]、中間型又は持続型インスリン製剤から本剤に変更する場合、併用している速効型インスリン製剤、超速効型インスリンアナログ製剤又は経口血糖降下剤の投与量及び投与スケジュールの調整が必要となることがあるので注意すること。
http://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00056247
丁寧な返答、ありがとうございます。
深夜の血糖測定やってみます。
主治医には、糖質制限していることは言ってありますが
詳しく話したことはありません。
詳しく話して、インスリンの種類についても
意見をもらいたいと思います。
重ね重ね、ありがとうございました。
カルピンチョ先生
丁寧にコメントをいただきありがとうございます。
私の場合、5週間でインスリンを離脱したので。「インスリン」の利用方法について、余り考えたことがありませんでした。
私の友人の場合や、1型糖尿病の人。すい臓の機能がかなり失われてしまった2型糖尿病の人は、チェックが欠かせませんね。
個人差は大きいし、また本人も日動変化があるようです。
* * * * * * * * * * * * * * * *
例によって、バーンスタイン先生の記事に目が留まりました。
P198
インスリンを混合することについて一言
ずばり一言で、混合してはならない。
2種類の異なるインスリンは決して混ぜてはならない。
唯一の特別な状況下の例外はP275に述べてある。
それ以外でインスリンを混ぜることは、たてえADAから勧められようと、製薬会社が市販している混合インスリンを購入可能であったとしても全く役にたたない。長時間型インスリンを速攻型インスリンと混ぜると、もはや長時間型、あるいは速攻型の特徴のいずれも失われる。
それ以外では
長谷川さん
バーンスタイン先生の本って明快ですよね。
でも、詳しすぎるので何度も読まないとなかなか、そこに書かれていることの大切さを理解できないです、私も。
ここで様々な人からコメントいただくことで私も日々、勉強させていただいております。
ありがたいことです。