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ヒートショックプロテインにちょっと手こずってます。白旗なう。

(内臓脂肪とインスリン抵抗性と慢性炎症と熱ショックタンパク質に関して その3)


読者さんからのリクエストでインスリン抵抗性と熱ショックタンパクについて書いてください、ということで記事を書きかけなのですが(^_^;)。

その分野の専門家ではないので、けっこう手こずっています。


これまでに書いた記事は以下の二つです。

内臓脂肪肥満が慢性炎症状態を生み出し、これがインスリン抵抗性を上げるのに一役買う。

分泌されたヒートショックプロテインが炎症を抑制する可能性を持つのでインスリン抵抗性を下げる可能性がある。

どうしても三つ目がうまくまとめきれないので、とりあえず書き始めてみます。

 

医療ニュースなどでよく目にするヒートショックプロテインとインスリン抵抗性の関係は、hsp72が様々なインスリンの標的臓器において、インスリン受容体からのシグナルをブロックするJNKの活性をブロックする可能性がある、というものが目立ちます。

これは熊本大学の荒木先生のグループが活発に研究されています(それが日本でよく医療ニュースに引用される理由でもありますね)。


hsp72とインスリン抵抗性に関する最近の論文ではこういうのがあります。


Hyperthermia With Mild Electrical Stimulation Protects Pancreatic β-Cells From Cell Stresses and Apoptosis

Tatsuya Kondo et al, 2012 Diabetes 61, 838-847

Department of Metabolic Medicine, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University, Kumamoto, Japan

Corresponding author: Eiichi Araki

http://diabetes.diabetesjournals.org/content/61/4/838.long

 

電気刺激と熱ストレスを与え続けることで、糖尿病マウスの膵臓β細胞が死ににくくなって、インスリン分泌能も維持されるというものです。

ここではマウス膵臓におけるインスリン抵抗性の低下が膵臓の保護に役立っているとしています。


実は、これまでにも、骨格筋や肝臓におけるインスリン抵抗性の低下もまた糖尿病の治療に役に立つという研究がこのグループから報告されていました。

筋肉のインスリン抵抗性が下がると筋肉へのグルコース取り込み能がアップすること、肝臓においてもインスリン抵抗性が下がることで肝臓での糖の取り込みがスムースになることなどが示されていたのです。

つまり、熱刺激や電気刺激を与え続けることで、体中の様々な臓器でヒートショックプロテインが発現することで、糖尿病の症状が軽くなる可能性があるのです。

 


ではせっかくのこの知識、われわれ糖尿人が自分の治療に当てはめるにはどうしたらいいでしょうか?


ひとつには「熱刺激や電気刺激を与え続ける」という部分を「毎日の運動で筋肉に負荷をかける」と置き換えてもよいかと思います。

運動する筋肉は糖を取り込みやすくなることは以前に書きました、ラーメンやケーキを思わず食べちゃった後は運動しましょう、という話でした。

これ、メカニズムの中に、運動負荷でヒートストレスがかかる結果、筋肉でhspの発現が上昇することによる効果が関わっている可能性がありますね。


もうひとつはほんとに「温める」ことです。

お風呂にしっかりと浸かって体を温めることで少なくとも手足の筋肉やを温めることで、hspの発現が上がってインスリン抵抗性が下がってくれたら嬉しいですよね。

 

また、hsp72が面白いのは温めたり、電気刺激を与えなくても、運動負荷をかけなくても、発現を誘導することができることです。

実に驚きなんですが、

胃薬のセルベックスを飲むと、hsp72だけでなく、様々なhspの発現が上昇することが知られています。

(セルベックスの市販薬の名前は「セルベール」です。エーザイから出てます。)

楽天市場 セルベール商品リスト


セルベックスの主成分のゲラニルゲラニルアセトン(Geranylgeranylacetone : GGA)がhsp70に結合することで、hsp群の発現誘導という効果を発揮するのです。

(詳細なメカニズムの説明は省略します。)

胃粘膜で発現誘導された様々なhspが、熱ショックタンパク本来の機能である、「ストレスから細胞を守る」という機能を発揮して、胃粘膜が傷むのを保護してくれると考えられています。

さらに、動物実験では、セルベックスを投与することで、胃粘膜細胞に限らず脳、心臓、肝臓、小腸、網膜などでもhsp発現誘導が確認されています。

荒木先生のグループの論文で、肝臓での発現誘導に成功したという報告をご紹介します。


An acylic polyisoprenoid derivative, geranylgeranylacetone protects against visceral adiposity and insulin resistance in high-fat-fed mice

Hironori Adachi et al, 2010 AmJPhysiol 299, E764-E771

Department of Metabolic Medicine, Faculty of Life Sciences, Kumamoto University, Kumamoto, Japan

Corresponding author: Eiichi Araki

http://ajpendo.physiology.org/content/299/5/E764.long

 

運動、お風呂、胃薬を組み合わせることでヒートショックプロテイン発現を誘導できそうです。

そうすれば、インスリン抵抗性を下げることができて糖尿病の症状も軽くなる、という可能性があるということですね。

(これは実験で確認されたわけではなくて、単なる私の想像です。もちろん、上の論文のDiscussionにも書かれていますけど。)


少なくともインスリン分泌能が残っている2型糖尿病の治療において、糖質制限による食事療法が最優先されるべきだという意見は、わたし、変えません。

けれども、運動療法、温泉ツアー(笑)、胃をいたわるというのもなかなか科学的に意義があることなんだなあと思えてきました。


セルベックスを食前に飲んでおいたら、実際に食後血糖の変化に影響があるのかどうか?

簡単な実験ですから、インスリン抵抗性の高い人はやってみるのも面白いかもですね。


まず、セルベックスを飲まずに食事内容を決めて食前食後に血糖値を測定して、

次の日に全く同じ食事内容でセルベックスを飲んでから食事、その食前食後に血糖値を測定、という実験ですね。

それを3セット繰り返して平均変動結果を見ます。

もしも効果があるようなら常備薬化してしまえばいいですね。

 

残念ながら、糖質制限して内臓脂肪の肥満がなくなった人ではインスリン抵抗性を下げる効果は見えないと思います。

だって、すでにインスリン抵抗性は下がってるはずですから。

hsp発現誘導ごっこで遊べないのです、残念です(笑)。

 


・・・以上で、ヒートショックプロテインについての記事、終了させていただきます。


実は、インスリン抵抗性に関わりそうな熱ショックタンパクはhsp72だけではないのです。

いろんなhspがいろんな臓器でそれぞれインスリン抵抗性の低下に関わります。

炎症に対しても抑制的に働くという意見と、条件次第では炎症を促進する可能性がある、という話もあります。


ただ、百科総論的なことをここで紹介しても意味がないと思うので、まとめたいと思ったのですが・・・。

かなりたくさんのhspの文献に目を通してしまったら、逆に手が出せなくなりました、まとまりません(^_^;)。

それで、hsp72関連の話題に集中してみました。

荒木先生、いろいろ勝手に引用させていただきましてありがとうございました。

 


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2012年10月24日 21:50

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コメント(2)

ありがとうございました。
大変役に立った記事です。
私も目にした説は熊本大学の荒木先生のhsp72のニュースです。
ですので数週間前からできる限りお風呂に長く浸かり、体温を38度位まで(計ってはいませんが)上げるようにしています。風呂上がりいつまでも汗が出続けるので、筋肉は相当温まった感じです。
また筋肉を効率的に増やすため、テレビ朝日の「ホンマでっか!?TV」に出ている、谷本道哉さんの「スロトレ」を購入して筋肉を鍛えたり、NHKのラジオ体操を録画して、出来る時間帯で身体をほぐしたりしています。
セルベールも早速楽天で注文致しました。
身長171㎝で体重61㎏なので内臓脂肪がどこまで減るか定かではありませんが、セルベールと長風呂とスロトレで、ラーメンやそばを食べた後200以上上がってしまう血糖値がどうなるか自分の身体で人体実験をしてみるつもりです。
詳しく解説して頂いたほかに、セルベールの情報まで教えて頂き本当にありがとうございました。

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