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糖質負荷すると糖代謝能が上がるように見えるメカニズム


今月のこのブログの記事は糖質負荷と糖代謝能の関連性、歴史のひも解きを始めてしまって、延々とそれが続いております。

しかしここで、現代科学に戻って考えてみましょう。


最新の研究に戻ってそこから見てみると、昔の先生がたの勘違いされたあの現象、

「糖尿病患者に一定量の糖質負荷をかけ続けると尿糖が減る人がいる。」

という変化がなぜ起こるのかが、合理的に説明できます。


「一定量の糖を毎日食べることで糖代謝能が改善するのである、日本人はこ稲作農耕民族だからそういう体質を持っているに違いない。」

決してそういう理屈ではありません(笑)。



答えは、腎臓の機能にあります。

腎臓での糖の再吸収メカニズムにあるのです、影浦式の理論を私が説明した時にそうじゃないかと書いた通りのようで。
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_140.html


まず、腎臓の機能について簡単に説明します。

腎臓は血液をろ過して、不要なものを尿として体外に排出しようという器官です。

これが体内の水分やイオンのバランスを取る上で非常に重要な仕事を常時こなしています。


ここで一日当たりに処理する血液量はおよそ1500リットルです。

これからまずは「原尿」と呼ばれる尿を作り出します、それが150リットルです。

そして、その原尿から水分や糖質、タンパク質、ミネラルなどの大事な成分を再吸収して、最終的な尿を作り出します。

それがおよそ1.5リットルです。


このように、腎臓では血液から尿を作り、いったん作った尿から必要なものを再吸収するという作業を黙々とこなしています。

糖の場合も、腎臓の尿細管というところで尿にこぼれた血糖を回収して血液に戻してやるシステムが働いています。

グルコーストランスポーター、その中でもSGLT(sodium-glucose transporter)2 という膜分子がここで活躍しています。


さて、糖尿病の人でどうして尿糖が出るのか?

これは、血糖値が高いからです。

血糖値が高い状態にあると、尿から糖を戻そうにも、戻せないのですね。

血糖値が160mg/dl~180mg/dlを超えると、尿糖が出てしまうと考えられています。


その辺がSGLT2の限界だというわけですね。


・・・ところが、このSGLT2の発現量は、高血糖状態が続くと次第に上昇していくことが分かってきました。

高血糖が続いている人では、尿細管に発現しているSGLT2分子の数が、普通の人の5割増し程度まで増えるようなのです。

つまり、240mg/dlまでの血糖値までは、なんとか尿から糖の再吸収ができるように、腎臓ががんばってしまうというわけです。


腎臓は、大事な栄養成分である血糖を捨ててはもったいないからと、一生懸命、原尿からのブドウ糖の再吸収能力を高めるわけですね。

これ、今月紹介した記事群で、昔の偉い先生方が観察されています。

影浦式のこれらの記述

「このように糖質を漸増していくと,比較的軽症で,ある程度の耐容力がある場合は,摂取糖質が耐容力をこせばもちろん尿糖は陽性となり,血糖値も上昇するが,その尿糖量は追加した糖質量より少ないから,収支差は日を追うて増加していく(図1破線)。」
影浦式食事理論編 http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_140.html

「厳重食時尿糖(― ),ついで糖質を漸増すると,尿糖は微量で,糖質270gの時(すなわち患者の入院前の摂取糖量に等しい),収支差260g前後,同一食事を24日間持続したが,この間収支差はほぼ不変.空腹時血糖値は120~ 140 msy/d′ (H― J法,耳架血,以下同じ),体重はやや増加を示した。
この例は影浦式食事療法の見事な成果であるといえよう。」
影浦式食事症例報告編 http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_141.html

山川式のこれらの記述

「含水炭素は主として米飯として用いる。およそ3食2椀に相当する。蛋白は魚肉,獣肉,鶏卵その他植物性蛋自である。脂肪はこの少量では大体食品中に自然に存在する量に近い。しかし日本人の普通食事としては,脂肪を特に加えぬだけで,格別制限という感はない。
この標準食事をやって,週日,十数日,尿糖を測定する。糖は当然著明に出る。血糖は研究の目的には別だが,治療の目的には必要でない.」

「上述の如くこの標準食事は通例患者の忍容力をはるかに越えている。したがって血糖も高く尿糖も多量に出るが差支えないから黙殺してそのまま継続する。かくの如くして週日,旬日の間,毎日の尿糖を測定するときは,大体2型に別れる.
第1型,すなわち日をおって尿糖量が減じてくるものと,第2型,すなわちほとんど増減なく一定なるものとである.しかし旧来信ぜられたように,忍容力を越えた故に漸次糖尿が増悪するような例は通例認められない.」
山川式食事療法 http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_142.html


どちらも、「糖尿病患者にカロリー制限をしながら糖質を食べさせると、次第に尿糖の排出が減る患者が出てくる、これはつまり糖質負荷が糖代謝能を上げるからである。」と結論しています。



でも、大きな間違いであること、お分かりですよね。

糖質負荷で糖代謝能が上がるように見えるのは、尿細管がSGLT2の発現量を上げて、腎臓での尿糖の再吸収能力を必死で上げているのが見えているだけのことだったんです。

それの限界量が240mg/dlです、通常の限界の1.5倍まで対応可能なので、尿糖だけを見ると、その排出量が減るからよいことであるかのように見えます。

けれども、これはちっとも良いことではありませんよね、高血糖状態をさらにひどいレベルまで押し上げています。

それまでは血糖値が160mg/dl~180mg/dlを超えると、尿糖として余分な血糖が排出されていたのですが、腎臓ががんばったおかげで、血糖は240mg/dlを超えるまでは尿に排出されないようになったのです。


糖質負荷することで「腎臓の糖再吸収能を上げていた」のが、「糖質負荷すると糖代謝能が上がる」という理屈の正体だったわけです。

そしてそれは良い変化ではなくてむしろ悪い変化であることは明白です。

「糖尿病が悪化するのは高血糖状態が続くからである」のは、現代にあっては誰でも知っていることです。


実は、影浦式の理論編について書いた時に、わたしはSGLT2の名前や機能が頭に浮かんできませんでした。

でも、私自身、影浦式の理論グラフを見て、こう記述しています。

「糖質負荷を漸増的に上げていくことで、尿糖排出が途中から急速に増えていくことは事実のようです。
ですがこれは、おそらく、「腎臓の再吸収機能の限界超えによる急速悪化、オーバーフロー」を見ているだけのことではないかと思われます。(ここは私、不確かな推測なのでどなたかご意見いただけると嬉しいです。)」
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_140.html

その答え、誰からもコメントいただけませんでしたが、たどりつくことができました。

糖質負荷による高血糖状態で、腎臓でのSGLT2の発現が上昇することで、見かけ上は尿糖排出が減る、そのSGLT2が増えて対処できる限界点が影浦先生の想定された「上界」だったというわけです。



さて、どうしてSGLT2という分子の腎臓における発現上昇が影浦式の誤解の正体だと私が気づいたのか?

それは、「SGLT2阻害剤が新しい糖尿病治療薬としてアメリカでまもなく販売開始されそうだ」、というニュースを見たからです。


影浦式や山川式のようにSGLT2の発現量を高めて尿糖再吸収能を上げるのではなくて、逆に機能を阻害することで、尿中に余分な糖を排出させて、糖尿病の治療薬にしようという考えです。

たとえば糖尿病患者さんにおいて血糖値が240mg/dlを超えると再吸収できなかったところを、140mg/dlを超えると再吸収できないようにSGLT2の機能を制限してやれば、インスリンの作用不足で高血糖になっている患者さんの血液を、腎臓でろ過して低血糖状態にできるだろう、という理屈です。

これは腎性糖尿病、という、血糖は高くないけれども尿糖がだばだば出る「無症候性糖尿病」の方々が、遺伝子変異を調べてみたらSGLT2の遺伝子変異だったということから、「糖尿病患者の余分な血糖を同じように尿に出してもいいんじゃないの?」という考えに至ったとのことです。


実際に、この薬が上手くいって、アメリカではまもなく販売開始になろうというわけです。


参考となるニュースのPDFがありましたのでurlを書いておきますね。
http://www.aspsawai.co.jp/2012092503.pdf#search=%27sglt2%E9%98%BB%E5%AE%B3%E8%96%AC%27



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糖尿病患者への糖質負荷、百害あって一利なしであることがよくわかりますね。

「糖尿病であっても日本人は糖質を55~60%食べるべきだ。」

「糖質負荷が糖代謝能を維持するのだ。」

そう言っている先生方が、この新しい薬を使うときに、自分たちの理論の矛盾点を患者さんにどのように説明するつもりなのか、今から大変楽しみです。



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2013年1月26日 12:06

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コメント(10)

ニュースのPDFにこのような記事がありました

”SGLT2阻害薬の投与中に、血中の総ケトン体が平均0.3mmo1/L増加したことが報告されており、ケトアシドーシスとの違いを見極めて治療する必要がある”

低炭水化物食と似た状態を作り出すわけですね

1) 低炭水化物食は糖質を最初から血液内に入れない

2) SGLT2阻害薬は血液内の糖質を無代謝のまま排泄させる

結果的には血糖値の変動は同一となり、ケトーシスの状態が起こりうる

ケトーシスとケトアシドーシスとは違うことを認識せねばならないですね

カルピンチョ先生の、
「糖質制限食と糖尿病」の誤解を解く、近代医療ミステリー(笑)(でも真剣に面白いです)にこれからも期待です!!

糖質制限では、肝臓が「糖新生」をするから大事なことは理解していたのですが、
なぜ腎臓までが機能していなければ、この糖質制限をしてはダメなのかイマイチ理解できてなかったのです。

(腎臓も「糖新生」するからとしかわかってませんでした)

腎臓、働きものですね~(笑)。

 SGLT2阻害剤についての、わかりやすい解説のHPです

http://dm.medimag.jp/column/24_1.html

 なお製薬業界では、インクレチンの次はSGLT2阻害剤であるというのが認識されています。2013年中に厚生労働省に申請し、14年には発売される見通しです。医師より製薬会社のMRの方がよく知っています

検索したら下記に有名な先生のお名前が出ました。1日カロリーの60%の糖質を摂って、この薬を飲めということなんですね。庶民にも分かり安すぎます。

SGLT2阻害薬トフォグリフロジン、2型糖尿病で有効性示す
2012年6月10日 

 新しい作用機序の糖尿病治療薬として現在、多数のSGLT(ナトリウム・グルコース共輸送体)2阻害薬の開発が進んでいる。第72回米国糖尿病学会(ADA)でも高い関心を集め、SGLT2阻害薬をテーマにしたセッションは超満員で臨時の聴講ルームが設営されるほどだった。このセッションで東京大学糖尿病・代謝内科の門脇孝氏はSGLT2阻害薬の一つトフォグリフロジンの用量設定第2相試験の結果を報告。門脇氏は12週間のトフォグリフロジン投与によって、2型糖尿病患者の血糖コントロールが改善し、安全性に関する重大な懸念は見られなかったと解説した。
http://lobster666.blog.fc2.com/blog-entry-319.html

<第47回糖尿病学の進歩> 2013年2月15日~16日: 三重県四日市市

[講演] 〜SGLT2阻害薬〜 尿糖排泄増+体重減,血圧低下も
http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2013/M46140131/

 インクレチン関連薬に続く新規治療薬として注目されているSGLT2阻害薬は,腎糸球体からのグルコース再吸収を抑制するという,これまでにない作用機序を持つ。開発が最も進んでいるdapagliflozinなど,計6薬において,わが国で臨床第Ⅲ相または第Ⅱ相試験が進められており,近い将来,臨床使用されるものとみられる。
 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の宇都宮一典教授は,dapagliflozinに関する臨床試験の結果を総括。まず,メトホルミン,スルホニル尿素(SU)薬またはインスリン製剤で治療中の2型糖尿病のHbA1c,空腹時血糖を罹病期間に関係なく,用量依存的に改善する成績が得られていると述べた。尿糖排泄は,前治療の有無にかかわらず,1日50〜60gの増加が認められた。さらに,体重減少(2.5〜4.0%)や血圧低下も観察されている。ただし,体重減少度と血糖降下度との関連についてはまだ十分なデータが出ていない。安全性に関する検討では,血清電解質や腎機能に異常を来すことはなかった。海外では,尿路感染症の頻度が有意に上昇したと報告されているが,わが国の臨床試験では増加は認められていないとした。

 同教授は一方で,今後明らかにされるべき課題も少なくないと指摘した。まず,腎機能障害を有する糖尿病患者における有用性と限界。尿糖排泄量は糸球体濾過量(GFR)の影響を受ける上,SGLT2阻害薬の腎移行が血流依存的であることから,GFR低下例では効果が減弱する可能性がある。次の課題は,非肥満例における栄養状態への影響。さらに腎外作用,すなわちSGLT2が局在する脳,心臓,肝臓などへの長期的な影響に関する検討の必要性も強調した。

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