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アカゲザルのカロリー制限研究での全く異なる二つの結果


記事のタイトルを見てなんかどこかで見たことあるなあと思った方、覚えていてくれてうれしいです。

そうです、先月末にこんな記事を書きました。

マウスを使った糖質制限での全く異なる二つの結果
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat10/post_85.html


同じ遺伝子背景のマウスを使って糖質制限の実験をしているのに、タンパク質と脂質の比率で結果が全く異なってしまっています。

タンパク質5%、脂質95%のマウスは太らなかったのに、タンパク質20%、脂質80%のマウスは激太りしたのです。

ただ単に脂質をたくさん摂れば太るってものではなくて、他の栄養素とのバランスが大事であることを示しています。


これ、たとえば人間での研究で言えば、

「糖質10%、タンパク質40%、脂質50%の食事群」と、「糖質35%、タンパク質30%、脂質35%の食事群」とでは全く別の結果が出てもおかしくないというわけです。

前者の極端な糖質制限では健康なのに対して、後者の緩い糖質制限では心血管系のイベントが増えてしまう、そういうことが起こるかもしれない。

(具体的に言えば、インスリンの分泌量や食後血糖変動が両群ではAll or Noneになる可能性があるわけですから。)

それをマウスの実験が示してくれたな、と、私は思ったわけです。



マウスの実験だからじゃないの?ヒトではそんなこと起きないでしょ?

という人もいるかもしれませんけど、そういう人にお伝えしたいのが今回のニュースです。

アカゲザルで25年以上かけてカロリー制限を行ったふたつの実験です。


まず一つ目の実験、2009年のScienceに掲載されたものです。


Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys

Ricki J. Colman1,, and Richard Weindruch
Science 10 July 2009:
Vol. 325 no. 5937 pp. 201-204
DOI: 10.1126/science.1173635
http://www.sciencemag.org/content/325/5937/201.short

ウィスコンシン大学の研究ですね、内容が衝撃的だったからたくさんの人が覚えていますよね。


好き放題に食事を与えたアカゲザルの群と、標準的な摂取すべきカロリーの70%にカロリー摂取を制限したアカゲザルの群。

この両者では、好き放題に食べた群での生活習慣病の発生が劇的なものとなり、見た目も肥満と汚らしい皮膚の姿で醜い年寄り猿となり果てました。

これに対して、カロリー制限群では生活習慣病の発症が抑えられて、見た目も若々しいものとなったのです。


「腹八分目は医者いらず」

ということわざを地で行くような研究結果となり、世間の注目を集めました。

25年もかけて実施されたこの実験で、それまで昆虫や小動物で長寿に関連すると言われていた結果が、霊長類のアカゲザルでも認められたということで、人間でもカロリー制限が、生活習慣病の予防や、アンチエイジングに有効なのではないかと考えられるようになります。

健康のためにカロリー制限を行う人も増えました。



これに対して二つ目は、米国国立老化研究所(NIA)の研究で、先月末にNatureに掲載されたものです。

Impact of caloric restriction on health and survival in rhesus monkeys from the NIA study

Julie A. Mattison,,,,,& Rafael de Cabo    
Nature (2012) doi:10.1038/nature11432
Received    27 October 2011
Accepted    23 July 2012
Published online    29 August 2012
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature11432.html

こちらでも25年以上かけて、アカゲザルにカロリー制限した群と、そうでない群とでの健康度比較を行っています。

Scienceに先行発表された結果を確認するような結果が出るものとみんな期待していました。


ところが、結果は全く違ったのです。

こちらの研究では、カロリー制限による生活習慣病予防の効果や死亡率減少の効果は認められなかったのです。

お腹すかせて我慢しても何もいいことはなかったなんて・・・(/_;)



どうしてこんなことになったのでしょうか?

実はこの二つ目の実験には一つ目の実験と異なるところがあります。

ふたつの実験群で、食べていた栄養比率が大きく異なるようなのですね。


一つ目のウィスコンシン大学の実験では、カロリー制限しなかった対照群のサルはいつでも好きなときに餌を食べるようになっていて、餌の内容も糖分が多いものだったそうです。

それに対して、今回の米国国立老化研究所(NIA)の研究者ラファ・デ・カボの実験では、カロリー制限しなかった対照群のサルには、標準的なカロリーを決めた量だけ摂取させたのです。

さらに、非常に健康的な、糖分の少ない、野生のサルの食餌を考慮したものになっていました。


つまり、ウィスコンシン大学の対照群は標準的な野生のサルではなくてメタボになるように飽食させたサル、国立老化研究所の対照群は標準的な野生のサルになるように設定されていたというわけです。

両方の研究結果から分かったことは、理想的な栄養構成で食事をすれば、標準カロリーでもカロリー制限でも生活習慣病を発症する頻度や、死亡率には差が生じないということです。(老化研究所の実験でも、血液検査データ上は差があって、カロリー制限した方がいろいろ数値はいいようです。その差が病気として結果となって出るほどには差がつかなかったということですね。)

標準的なカロリーに制限していれば大丈夫だけれども、節操なく食べるのは大変身体に悪いということがよくわかったわけですね。


二つの実験の結果の差、糖質制限の有無が大きく影響しているように私は思いましたが、そこはさらに検討が必要ですね。

一日の糖質摂取量だけを制限して、あとは好き放題に食べさせる実験群、というのがあれば、糖質制限すればカロリーを気にしなくても大丈夫なのかどうか、わかるかもしれませんし。



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マウスの話からつなげてきたのはまったくの偶然なんですが、このアカゲザルの研究においても、単純にカロリー制限するだけでは実験結果が全く違うものになってしまって、比較できないのです。

コントロール群、カロリー制限群、両者において、どのようなバランスで栄養摂取させるのかが、実はとても重要な要素であり、その検討から始めるべきだったのですね。

特に今回のアカゲザルの場合で行けば人間同様に、食事中の糖質の比率がけっこう健康に重要な影響を及ぼしたりする。

それらのことが確認できた、二つのとてもお金と時間のかかる実験だったというわけです。



カロリー制限の話がけっきょくまた糖質制限に落ちてすみませんです(^_^;)。

(いったんは糖質制限が重要ではないかと結論したのですが、訂正しました、すみません。 9月6日訂正)

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2012年9月 5日 21:24

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