影浦式食事法の補足1: 糖質制限と糖代謝能
前回の記事が難しかったというか長すぎたようで。
二つの記事を要約すると以下です。
「糖質制限すると糖代謝能が落ちるけれども、糖質摂取させるとそれが上がってくる」
という、混迷の時代にさっそうと現れたというのが1922年に発表された影浦先生の理屈だそうです。
その理論は、摂取糖質量から尿糖排出量を引いた収支差に注目することで樹立されました。
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_140.html
でも、実践例を見る限り、糖質摂取が治療効果を発揮しているようには見えませんでした。
むしろ、「糖質能を回復させる」という食事導入期の治療が「糖質制限」そのものであることから、
「糖質制限をしたあとで漸増的に糖質摂取させると糖代謝能が上がってくるように見える。」
という治療法でしかないと思われました。
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_141.html
影浦先生の治療方法は「短期間の糖質制限導入」と「初期インスリン導入」の二本柱なのです。
その二つを実施したあとで、あるいは実施しながら緩やかな糖質負荷をかけているわけですね。
それを、あたかも「糖質摂取させたから糖質代謝能が上がって糖尿病がよくなった」ように見る解釈をしていたのです。
曲解です。
ただし、この発想の根本となった、「糖質制限すると糖代謝脳が落ちる」というエビデンスの方は、前回紹介した文献には記載されていません。
おそらく、1922年かその前後の文献に記載されているのでしょう。
読んでないけれども、ひょっとしてこういうことではないのかな、
「糖質制限してすぐのところにいきなり300gの糖質摂取とかの負荷をかける、すると尿糖がどかんと出る、だから糖質制限すると糖代謝能が落ちると判断する。」
「その、糖質制限して糖代謝能が落ちているところに漸増的に糖質を負荷することで、尿糖の出方が穏やかになる、つまり、糖代謝脳が復活するのであると判断する。」
そんな気がしますな。
影浦式の実践例を見ると、それ以外の理屈が考えつきにくいのです。
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でも、オリジナルか、それについて書いた文献にたどり着かないとね、もう少し調べてみます。
・・・というか精神科医師Aさんに頂いた文献を精読し直してみます。
たくさんあって、古い時代の医者の日本語はけっこう読みづらくて、ついつい後回しにしておりますので(^_^;)。
>おそらく、1922年かその前後の文献に記載されているのでしょう。
その頃の代表的な、この文献がおすすめです
http://archive.org/details/treatmentdiabet00joslgoog
" The treatment of diabetes mellitus "
Elliott Proctor Joslin, 1917
高脂肪蛋白食は、" fat-protein diet "として掲載されています。私がざっと読んだ限りでは、数多くの症例が記載されていますが、必ずしもfat-protein dietを支持しているわけではなさそうです。
面白かったです!
1920年の医学的な誤解(?)を解くカルピンチョ先生のミステリー解説にワクワクしました。
重症の方以外は、1920年代でもタンパク質脂質食が主流で良かったのに…
合併症の、腎症の進行は1920年代はまだわからなかった、ということでよろしいのでしょうか?
精神科医師Aさん
お世話になっています。
Joslinの1917年版がwebで読めるんですね、びっくりしました。
数多くの著作権切れのテキストがこうやって公開されているんですね、青空文庫の英語文献版ですね。
国立国会図書館の文献も読みに行かせていただいています。
まだ、「糖質負荷することで糖代謝能が上がる」という記載にたどり着けませんが、ご紹介いただいた山川式食事法の文献に参考になる記述がたくさん書いてありました。
(山川式食事法については新しい記事で紹介しました。 http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_142.html )
そこから「糖質摂取と糖代謝能」に関する議論についてまとめた記事をもう一つ準備中です。
ナオさん
ありがとうございます。
そう言っていただけると書いた甲斐があります。
合併症の糖尿病腎症に関しては、細かい分類による病態管理がなされるようになったのは1960年代以降からのことだと思われ、患者の腎症がどの段階にあるのかは20世紀前半までは大雑把にしか把握できていなかったと思われます。
腎臓での糖再吸収能力は個人差が大きいこともあり、血糖値のこまめな計測に合わせて、イヌリンクリアランスなどによるGFR評価ができるようになるまで難しかったでしょうね。
だから、同じ食事療法が患者によって異なる結果に至る、そのことが混乱を招いたのだと考えます。
それは現代においても同じです、山田悟先生が糖質制限に少し引いた慎重な立場で取り組んでおられるのも例外的な症例の予想外の反応が騒がれて糖質制限がまた叩かれるのを避けようという考えの上でのことなのだと思われます。