糖質摂取しないと糖質代謝能が落ちるという理屈 症例報告編
「糖尿病の食事としては一定量の糖質摂取が重要である」とする、糖質セイゲニストから見ると「トンデモ理論」、その理論が成立した過程について前の記事で説明しました。
⇒糖質摂取しないと糖質代謝能が落ちるという理屈 理論編
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_140.html
ここでは、その理論に基づいて実際に行われた治療成績について具体的に紹介します。
なぜなら、糖尿病コントロールはうまくいってるし、患者さんは喜んでいるからです。
でも、結論から言うと、その治療方法の実態は「糖質制限」だったり「インスリンの急速導入」だったりするわけで、うまくいって当たり前。
後から糖質をそんなにたくさん食べさせなければもっとよかったのにな、と、思いつつ・・・
症例報告1
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症例l 渡○運○,3,58才,図2参照.
入院当初,糖質270g,尿糖53~ 91g,収支差217~179g,厳重食時尿糖(― ),ついで糖質を漸増すると,尿糖は微量で,糖質270gの時(すなわち患者の入院前の摂取糖量に等しい),収支差260g前後,同一食事を24日間持続したが,この間収支差はほぼ不変.空腹時血糖値は120~ 140 msy/d′ (H― J法,耳架血,以下同じ),体重はやや増加を示した。
この例は影浦式食事療法の見事な成果であるといえよう。
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この方はおそらく2型糖尿病で、糖質摂取量は270g程度と、当時の日本人にしては低めですが、糖質摂取が影響して尿糖が毎日50g以上出るほどの高血糖状態を持続していたわけです。
それが入院して「厳重食事」という、一日糖質量30g以下の厳しい糖質制限食治療を受けることで速やかに尿糖が消えています。
その状態を4月30日から5月4日までの5日間続けているので、ここで膵臓は休むことができたし、食後高血糖がなくなったので血管の障害も少しは改善してきたでしょう。
でも、5月5日から糖質負荷が始まり、それと同時に、負荷された糖質量に応じて尿糖が漸増的に出現しています。
5月13日までの9日間の漸増で一日糖質摂取量が開始前と同じ270gとなりますが、糖質制限食前の尿糖に比べると少ない尿糖です。
それをさらに24日間続けても尿糖はあまり増えなかったと言うことで、改善しているように見えます。
5日間の完全糖質制限と、それに引き続く数日間のマイルドな糖質制限、それで患者さんの膵臓のβ細胞は何十年ぶりかの休憩が取れて、いくばくかの機能が回復したでしょう。
また、数日間の糖質オフにより糖新生が誘導され、肝臓の脂肪、内臓脂肪が消費されますので、インスリン抵抗性も下がったのでしょう。
(スーパー糖質制限では、糖質制限開始当初に劇的な効果を見ることがあるのは皆さんご存知かと思います。)
糖質摂取量を、入院前の270gまで増やしても尿糖が増えない、というのは、それらの効果の遺産が続いているだけ、という風にしか私には見えません。
だって、「入院前と退院時の糖質摂取量がともに270gで、しかし症状は改善している。」
この事実に対して、
「5日間のスーパー糖質制限と、そこから通常食までの緩やかな糖質摂取量漸増以外の治療」
それ以外、何にもしてないじゃないですか、この方に対して。
これぞまさしく「短期糖質制限の効果」を著した「影浦式食事療法の見事な成果であると言えよう」。
素晴らしい!(笑)
さて、糖質摂取量を増やしてそれを維持することで、その長期効果はどうなのでしょうか?
入院時のデータしかありませんが、この方がこの食事を続けたとして、例えば一年後にどうなったのかを聞きたいものです。
糖質セイゲニストの常識からすると、やがて、悪化しますよね、糖質摂取を長期的に続ければ。
また病態が悪化したら入院していただいて、また短期糖質制限するのでしょうね。
せっかく糖質制限して状態が改善しても、糖質をあえて食べさせたのなら、悪化したらまた糖質制限して症状を改善してあげる、そうあって欲しいです。
「糖尿病は徐々に悪くなるのはしょうがない、現状維持するのが最高の治療なのだ。」
などという説明を受けて、逍遥として病状悪化を受け入れさせられていなければよいのですが・・・。
症例報告2
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症例2 鬼○満○,8,53才,図3参照.
入院当初糖質270g,尿糖295gで負の出納であった。
厳重食で尿糖(― ),ついで糖質を漸増したが尿糖は意外に少なく, したがって収支差は少しずつ増加,糖質を再び270gとした時, 収支差は大約250g以下, ついでイ使用,これも漸減しついに中止,その後観察を続けたが,血糖値も大約140以下にあり経過良好であった。
本例も影浦氏食事療法と,イによる疵護が両々相まって,見事な治療効果を発揮したものである。
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この方も2型糖尿病でしょう、この時代に1型糖尿病の方は残念ながら短命でしたし。
かなり重症で、一日270gの糖質摂取で300g近い尿糖が出ていたということですから、糖新生してもダダ漏れ、かなりやせていたでしょうね。
ところが、入院して厳密な糖質制限食を始めて尿糖が劇的に減り、4日目、5日目には計測できる尿糖が出なくなりました。
そして、ここからやっぱり糖質負荷をかけていくんですね(^_^;)。
6日目、180g負荷ぐらいまでは尿糖の上がり方も直線的ですが、7日目あたりからぐっと上がってきます。
それでも、入院時の糖質負荷と同じ270gまで糖質摂取量を上げても、上げても、30~70gの尿糖におさまっていますから、スーパー糖質制限の効果がかなり効いています。
そして面白いのが、ここから、インスリンを使い始めるのですね。
インスリンの量を調節して、尿糖が一日当たり10gぐらい出るように血糖値コントロールを始めています。
(決してゼロにしようとしないところがこの時代らしいですね、ゼロの状態だと、インスリンが効きすぎたときの低血糖発作が心配、というわけです。尿糖でしか見れないから仕方ないかな。)
つまり、この症例に施したのは、最初の5日間のスーパー糖質制限と、マイルドな糖質制限数日間、そしてインスリンの初期導入です。
インスリンは10日間しか使わず、離脱しても尿糖は少ないままであったと誇らしげですが、最初の糖質制限同様に、インスリン導入でも膵臓のβ細胞はお休みできますし、インスリン抵抗性も下がりますから、症状は改善します。
これも、糖質摂取が糖代謝能を上げた症例とは言えないんじゃないでしょうか、どう見ても。
症例報告3
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症例3 原○重○,8,42才,図4参照.
入院当初糖質400g前後, 収支差大約300~ 350g,厳重食は行なわず,糖質230gくらい(本人の腹づもり)の時,尿糖最大60g前後,イ使用,30単位で尿糖(― )以後27日間に5単位まで減量したが尿糖は軽微となり,以後中止したが尿糖は10g前後である。
この例のように,先生は症例によっては厳重食をなさらない場合もあったが,これはあくまで患者の諸事情を考慮されてのことであった。本例は腎機能障害があったためである。
また症例2, 3はイの量には常に注意を払い,初めに決めた量をもって固定して使用してはいけないことの好例である。
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この症例では患者に腎機能障害があるためにスーパー糖質制限を行っていません、これは正しい選択ですね。
ただし、それまで400gほど摂取していた糖質を230gまでに制限する食事療法を行い、尿糖の減少は見ています。
でが、それでも一日尿糖量が60gということなので、インスリンの早期導入を行っています。
糖質摂取量は230g前後にほぼ固定、インスリンで血糖値を下げることで尿糖ゼロにコントロールしました。
(今度は尿糖ゼロになるインスリンを打つって、治療の基準がわからないですね?症例2の時代と考え方が変わったのかな?)
この症例は、糖質摂取しながらインスリンを打ち続けることで症状をコントロールしています。
インスリンを離脱したとたんに尿糖が再び出現しているものの、インスリン投与前に比べれば尿糖は軽微です。
まさしく「インスリンの初期導入による膵臓機能温存の効果」が見えている症例です。
「インスリンの初期導入」は最近の考え方であるかのように学会で報告され、議論されていますが、経口血糖降下剤のない、この時代には当たり前の治療方法だったというわけです。
でも、この症例報告もまた、「糖質摂取が糖代謝能を上げる」、という説明にはなりませんよね。
インスリン離脱後にも症状が改善するのはインスリン導入で膵臓のβ細胞が休むことができるからである、というのは「糖質制限たたき」をする糖尿病専門医の先生方も否定できないことだと思います。
で、これら三つの症例を見てわかることですが、
影浦式の治療方法は、「一時的な糖質制限+初期インスリン導入」という、非常に理にかなった治療方法であったということです。
けっして糖質摂取食で糖尿病を治療していたわけではないのです。
糖質制限やインスリン初期導入を単独で、あるいは組み合わせて実践すれば、膵臓を休ませることができる。
だから糖尿病が改善する、ということをやっていただけのことです。
糖質摂取を推奨するという理論的な勘違いだけは問題ありですが、患者の要求を受け入れつつ、効果的な治療を実践されていた、すばらしい医者だったのだろうと思います。
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実際に先生は,患者さんには懇切丁寧に接せられた。その病状把握は常に全体的で,小さいことには余りこだわられなかった。
昭和25年,原爆後の仮病院で,肝膿瘍の診断を,外来のしかも初診でなさり,入院精査の結果そのものずばりで,主治医であった私は驚いたことが忘れられない。
また先生は論文審査の際,副論文を重要視され,内科の各部門別のものがあるかといわれたことなど,両々相まって,先生が臨床的にも,研究的にも真の内科医であられたことを如実に示しているといえよう.
後日先生は開業されたが,毎日間前市をなす患者さんであったのも,むべなるかなであろう
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後輩の医者だけでなく、患者さんからの信頼も厚い、良い先生だったようですね。
再度強調します。
影浦式食事療法の本質は「糖質摂取による糖代謝能の改善」ではなくて、「短期間の糖質制限導入+初期インスリン療法」だったのです。
現代にあってさえ、異端だとか、最先端と言われるような治療をすでに実践しておられた。
だからこそ良い結果も出たし、医者も患者もみんな景浦先生の治療法を信用したのです。
でも、理論を組み立てた時に主張された「糖質摂取による食事療法」の効果と思えるデータは、実践例の中にはなんら見いだせません。
現役の糖尿病専門医の方々にも、もう一度この事実を見直して理論についてよく考えていただけたらと思う次第です。
参考文献はこちらです。
影浦式食事療法 楠木繁男 著
Diabetes Journal Vol.2. No.1. 1974
精神科医師Aさん、文献ありがとうございました。
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(補足)
糖質負荷が糖尿病患者の体にどういう影響を与えているのか、本来であれば、血糖値で測定するべきなのですが、この時代にはそれはたいへん難しいことだったでしょうから、尿糖で計測するのは仕方ありません。
(つまりこの時代の糖尿病の患者さんは尿糖+でしか判定されない、糖尿病が進んだ状態の方が多数を占めていたことにもなります。)
(ぼやき)
2記事で原稿用紙28枚分のボリュームになってしまった。図も入れて文献も入れたら雑誌に投稿できそうだ(^_^;)。
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わ~~~。わからん!!DMの治療の事は難しいですね。奥が深いんですねえ。医学だから当たり前ですね(^^!)
我々、今のところダイエットと成人病予防に関心のあるものにとっては、関心はもっぱら体重。血液検査はまたそのうちに。
プチを始めて、1カ月半余り。主人はー4キロ、私はー2,5くらいで止まっています。ちと、油ものが多いか…。いずれにしても主人が大福餅などに手を出さないのがまさに奇跡の様です。いいきっかけになったと思います。
たらこさん
すみません、ちょっとマニアックに過ぎましたね。
もう少しスッキリ書ければよかったんですが、う~ん。
補足記事もあるのでアップしつつ、書き方をもう少し考えてみます。
ご主人ともども停滞期ですね、でもよくあることで、時間をかければ階段状に落ちていきますのでご心配なく。(それぞれ、一気に減った内臓脂肪がその程度だったということでしょうから、ここからは皮下脂肪、もしくは落ちにくい内臓脂肪です。)
大福餅、というかふたばの豆餅思い出した!
あの塩えんどう豆とあんこの絶妙な塩甘具合が懐かしいです。
大原女のおばちゃんたちの担いでくる大福餅も素朴で美味しかった。
でも、どちらも懐かしいだけで、食べたいという欲求は起きなくなりました。
黒蜜団子は一個ぐらい食べたいかな。(・_・)ノ☆(*__)
はじめまして。
主人が1型糖尿病で、最近血糖コントロールがうまくいかず、なんとかしたくいろいろ調べていたら、こちらにたどり着きました。
理論編とあわせて読み終わり、今まで納得しきれない部分がすとんと腑に落ちました。ありがとうございます!
これで、自信を持って勉強していけます。
そして私もついでにダイエットしてみます。
ああ、すっきりしました~。
クロさん
お役に立てたのなら何よりです。
現代の糖質制限のパイオニアであるバーンスタイン先生が1型糖尿病であり、患者さんのものも含めてその実践記録が詳しく書かれているのがあの本「糖尿病の解決」です。
でもちょっと難しい(^^;)。
ちょこちょこ、紹介させていただきたいと思います。