インスリンがなかった時代の糖尿病食はどのようなものか?
インスリンが1921年に発見され、これが糖尿病の治療薬として使われるようになったことで多くの糖尿病患者が命を救われ、普通の人と同じような生活を送れるようになりました。
巨人にいたガリクソン投手のように、幼いころから1型糖尿病という持病を抱える人が一流スポーツ選手としても活躍できるようになったのは、ひとえにインスリンのおかげです。
2型糖尿病の患者さんでも、糖尿病が進行していけばインスリンのお世話になることになります。
では、インスリンが糖尿病治療に使われる前は糖尿病患者にどのような治療が行われていたのでしょうか?
それは、「食事療法がすべてであった」と言っても過言ではありませんでした。
インスリンを使うことができない状態で血糖値が激しく上昇するような食事をすると、高血糖に苦しみ、命に関わるのが進行した糖尿病患者さんの常ですから、それを避けるためにどのような食事をすればいいのか知っておく、それを懸命に追求したのが、1921年より以前の食事療法だったと言えます。
逆に言えば、それは「インスリンなどの投薬なしで糖尿病と共存していくための方法」を表しているともいえます。
現代においても同じことです。
境界型糖尿病の人や、糖尿病初期の人がインスリンなどの薬を使わないままにうまく糖尿病を抑え込みながら生きていくための方法であると言ってもいいでしょう。
その食事療法は実際にはどのようなものだったのでしょうか?
1917年の糖尿病の食事療法の本が、University of California LibrariesのPDF文庫の中に所蔵されています。
Diabetic cookery; recipes and menus ([c1917])
http://archive.org/details/diabeticcookeryr00oppeiala
Author: Oppenheimer, Rebecca (Wolff), Mrs., 1854-
Subject: Cookery for the sick; Diabetes; Diet in disease; cbk
Publisher: New York : E.P. Dutton & company
Possible copyright status: NOT_IN_COPYRIGHT
Language: English
Call number: SRLF:LAGE-266960
Digitizing sponsor: MSN
Book contributor: University of California Libraries
Collection: cdl; americana
[Open Library icon]This book has an editable web page on Open Library.
これはOpen Libraryですから、PDFファイルが以下のアドレスからダウンロードできます。
http://ia700301.us.archive.org/1/items/diabeticcookeryr00oppeiala/diabeticcookeryr00oppeiala.pdf
この本の中で糖尿病患者が絶対に避けるべき食材として摂食を厳しく禁止されているのが以下のものです。
Sugars
All Farinaceous Foods and Starches
Pies
Puddings
Flour
Bread
Biscuits
Rice (by permission only)
Sago
Arrowroot
Barley
Oatmeal (by permission only)
Tapioca
Macaroni
Beets (on doctor's order)
Large Onions
All Sweet and Dried Fruites
Honey
Levulose
All Sweet Wines
Liqueurs
Cordials
Syrups
Beer
Ale
Stout
Porter
Chocolate
Condensed Milk
糖
すべてのでんぷん質の食品及びでん粉
パイ
プリン
小麦粉
パン
ビスケット
ライス(許可された場合のみ)
サゴ(サゴヤシの幹の髄からとった白い米粒状のデンプン。食料、または糊(のり)の原料。「沙穀」)
クズウコン(南米産の植物の根茎からとれるくず粉のようなものです、これも要するにでんぷん)
大麦
オートミール(許可された場合のみ)
タピオカ
マカロニ
ビーツ(医師のオーダーで)
タマネギ
すべての甘いドライフルーツ
蜂蜜
レブロース(β-D-フルクトピラノース 果実糖)
すべての甘口ワイン
リキュール
強壮剤(コーディアル酒 養命酒とかシャルトリューズ (Chartreuse)とか)
シロップ
ビール
エール
スタウト
ポーター
チョコレート
コンデンスミルク
おわかりでしょうか、徹底的に糖質摂取を禁止しています。
インスリンがない時代に糖尿病患者が生きていくためには「絶対食べてはならないもの」が上述の「糖質」食物群なのです。
そんな食べ物を、健常な人だけでなく、肥満者や糖尿病患者にさえも、毎食60%もの糖質を食べさせ続けているのが日本糖尿病学会の推奨する栄養指導です。
食品交換表に従うと、間違いなく50%以上のカロリーを上述の禁止食物から摂取させられます。
糖尿病患者をどんどん作りだして、初期の糖尿病患者は確実に悪化させて回復しないようにしよう♪
そしてやがてはインスリン注射漬けにしないと生きていけないようにしよう♪
最後は人工透析に持ちこんで、国のお金(税金)でたんまり儲けてやろう♪
現在の日本の高糖質食推奨には、そういう悪意があるようにさえ、思えてしまいます。
ちなみに、ここで取り上げた「Diabetic cookery (1917)」の存在は、やはり前の記事で取り上げた「The Food Revolution - AHS 2011」という講演で知りました。
1917年のアメリカは、血糖についての経験知が素晴らしかったのですね。
糖尿病治療の歴史を探していたら、江部先生のブログに出会いました。
http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-391.html
インスリンの発見後、低糖質食事療法は後退してしまったのですね。歴史の皮肉という感じですかね。
科学の進歩がうまくマッチしないと逆行現象をおこす。
8月のクローズアップ現代で、アメリカの胃バイパス手術を取り上げていましたが、手術しかなくなってしまった患者の最終手段だと思います。手術すればいいんだ・・という風潮にならないことを。
わんわんさん
さっそく読みに行ってきました。
なるほど、心臓死の原因を探る目的で脂質が悪者だと決めた、と。
だから脂質を減らした、いわゆるマクガバンレポートですよね。
しかし肝臓や血管内の脂質は食べた脂質からがメインではなくて、主として食べて余った糖質から作られるのだ・・・ということはわかっていなかったし、思いもよらなかったわけですね。
ところがアメリカでは1990年代にその間違いに気がついて、2000年代初頭には糖質制限という選択肢も患者に情報として提供していたし、どれを選ぶかは患者の自由としていた。
なぜに日本糖尿病学会はいまだに・・・
あ、堂々巡りしちゃった(笑)。
はじめまして。江部先生のブログから来ました。連れ合いがDM暦3年目、糖質制限食に切り替えてまだ3ヶ月目でいろいろな方から貴重な情報を頂きながら勉強中です。
彼が2010年5月に診察を受けたときは、A1Cは 9.9でした。カロリー制限食と飲み薬で6.7くらいでコントロールしてきました。しかし、食後2時間くらいの血糖値は毎回軽く300近く。それなのに主治医はA1Cが安定してるからOKとのコメントなしでした。どうしても不信に思い調べているうちに江部先生の本やブログに出会い、先日からこちらにもお邪魔させていただき勉強させて頂いている次第です。ありがとうございます。主人が糖質制限を開始して2ヶ月目の血液検査では、A1Cは5.5と改善しました。動脈硬化もあるためBNPも毎回測定してますが、25.2⇒2.8と改善しました。改めてカロリー制限食時代の栄養指導書を見たら、腹が立ってきました。殺すための食事なのね・・って思えてきました。江部先生のブログ内で長谷川様がお薦めされていたインスリンがなかった頃の食事療法の情報を拝見しました。ちょっと言葉を失くしてしまいました。糖尿病患者を増やして透析患者を増やして手術までTVで紹介して・・・学会、ひどすぎる。本当に殺されるところでした。
先生、貴重な情報をありがとうございます。
ふみさん
ご主人の劇的な改善、おめでとうございます。
HbA1cも全く正常値ですし、動脈硬化が治癒傾向にあるのが素晴らしい。
私も糖質制限して血圧が135/85から100/60くらいに改善しましたからね。
ぜひこのまま続けて柔軟性のある血管を取り戻してください。
ついこの前、江部先生もブログで書かれていましたが、日本糖尿病学会の指導指針に従って「コントロール良好」とされるHbA1cの値は「仮面の値」ですよね。
実際には「高糖質食で食事ごとに75gOGTTをやらされているのと同じ」わけで、それでは糖尿病はじわじわと進むのが当然です。
糖尿病専門医の先生方も、自分の頭で考えてみれば「高糖質カロリー制限食」が根本的におかしいことに気付かないはずがないんですけどね。。。
ふみさん。ようこそ!
A1c6.7だと、平均血糖値約160ですから、カロリー制限食だと、食後300近くになりますよね。
日本糖尿病学会は、A1c6.5未満なら合併症の恐れがないといっていますが、血糖値180を超えたら血管は痛むし、尿糖もでるんです。
バーンスタイン先生が、米国糖尿病学会にたいして、A1c7.0以下(日本値で6.6以下)という目標を「患者をレイプするようなもの」と言っています。
「主治医はA1Cが安定してるからOK」というのは、合併症を想定していません。
早くおかしい事に気がつかれて、本当に良かったです。