糖尿病の食事療法 脂質食療法と飢餓療法
いくつか前の記事の「世界と日本における糖尿病食事療法の変遷」の中で、1898年のNaunynにより提唱で、糖質制限が糖尿病治療食として始まり、治療効果を上げたことを書きました。
現代の科学から見ると、糖尿病の合併症の主因が「高血糖による血管内皮障害」にあることは明瞭なので、食後高血糖を一度も誘発することのない糖質制限食は極めて好ましい食事療法であったと思われます。
また、一日尿糖を測定して、尿糖が出ない糖質摂取量を個人個人の「耐容力」として計測し、それ以下の糖質摂取にするようにしたという考え方も、糖尿病の重症度に応じて対応を考えたという点で優れていると思われます。
もちろん、尿糖が出るのは血糖値160~180mg/dlになっていることを示すので、理想を言えばそれよりもずっと厳しく糖質制限すべきなのは言うまでもないのでその時代には尿糖を測るのさえ大変なことでしたからね。
何人かの先見の明により、糖尿病の食事療法は画期的な成果を生み出し始めます。
・・・ですが、困ったことに科学の進化が状況を混乱に陥れ始めるのです。
1900年代に入って糖原性アミノ酸を摂取すると、それを元にして肝臓で糖新生が起こり、糖質を摂取していないのに血糖値が上昇するということが明らかになります。
この糖新生による血糖上昇は、インスリンの欠損状態にある1型糖尿病の患者さんや、進行した2型糖尿病患者さんにおいてこそ問題となりえますが、大多数の2型糖尿病患者さんにおいては大した問題になりません。
むしろ、糖質摂取に比べればはるかに緩やかな血糖上昇なので、歓迎すべき食事内容です。
ところが、「血糖を上げることこそがいけないことだ」という風に取り違えてしまった「糖質制限絶対信仰派」の人たちがタンパク質摂取制限に走り始めます。
これで引き起こされたのが脂質のみでカロリーを摂取しようという高脂質食の推奨です。
摂取エネルギーのほとんどをラードやバターなどの脂肪からのみ摂取しようというこの方法、実は現代でもある病気の治療には実践されています。
それは難治性の小児てんかん患者における癲癇発作発症予防食で、こちらの患者さんたちの臨床データからすると、なんとか実践可能な食事療法ではあります。
でも、毎日脂ばっかり食べて暮らせないですよね、正直なところ(^_^;)。
そして、もう一つ、この高脂質食はすぐに医学的に問題視されます。
高脂肪食が確実にケトーシスを招く食事であるということで、糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こすのではないかと危険視されたのです。
糖尿病患者においては、ケトンを作り出す食べ物(脂肪やケト原性アミノ酸)の摂取は、極力制限するべきではないか?
糖尿病の恐ろしい合併症である糖尿病性ケトアシドーシスが起こるのを恐れた臨床家たちは、生理的な状況であるといえるケトーシスを避けようとして、高脂肪食を否定しますます。
(ほかの記事で書きますが、ケトーシスは必死に避けなければいけないような状況ではないのですが、臨床家達からは嫌がられます、「羹に懲りて膾を吹く」って感じですね(^_^;)。)
⇒ ケトーシスとケトアシドーシス その1 ケトーシス
⇒ ケトーシスとケトアシドーシス その2 ケトアシドーシス
ということで食事療法は結局どうなっていったのでしょうか?
1.糖質を制限する。
2.糖新生に関わる糖原性アミノ酸摂取も制限する。
3.ケトアシドーシスが怖いから脂肪摂取も、ケト原性アミノ酸摂取も制限する。
たどり着いたのは、徹底的なカロリー制限による「飢餓療法」です。
極力摂取カロリーを制限して、基礎代謝量しか食べさせない、そしたら摂取エネルギーはすぐに消費されて、食後血糖値もあまり上昇しない。
患者さんは病院で寝たきりですが、死なずに生きながらえていくことができます。
尿糖が出なくなったら少し食べる量を増やす、でも、尿糖が出たらまたカロリー制限する。
離脱できる人もいますが、重症の糖尿病患者さんはなかなか退院できません。
なんじゃそれ?
生きてる意味ないじゃん??
ですよね。
さすがに現代ではこんな治療をしている病院はないと思いたいのですが、昔は真剣に取り組まれていたようです。
徹底的なカロリー制限だけで糖尿病を直そうとする治療。
糖質制限ダイエット ブログランキングへ
・・・やってるとこないですよね?
・・・ね? (´・ω・`)
⇒世界と日本における糖尿病食事療法の変遷
http://xn--oqqx32i2ck.com/review/cat26/post_145.html
(この記事は上記のリンク先の記事の末尾に書かれたリンク先の記事です。)
スポンサードリンク 2013年1月24日 12:25 スポンサードリンク
管理人様
糖原生アミノ酸の問題に加えてケトアシドーシスの
問題まであるのは、完全に盲点でした。
ただ、冷静に考えてみれば仰る通りで、
脂肪ばかりで賄うと血糖値が一切上がらない反面、
胸焼けしやすく頭痛など別の問題が起こりそうな事は
容易に想像できますね。
高脂肪食で体重減少のデータもありますが、
悪いデータや反応もあるので偏らない総合的な
検証がいかに重要か実感させられました(糖質制限で減らない例や合わない例も含めて)。
また、断食などカロリー制限ですが、糖質制限に関する
本やブログが沢山出てきてる現在でも皮肉ながら
衰えていないと思われます。
事実、玄米菜食や伝統食など非科学的なものが広まっているのはその最たる例で、現代人は野菜か果物は善玉、
肉や魚は悪玉扱いが大半ですので、、、、。
>giga8plusさん
>断食などカロリー制限ですが、糖質制限に関する 本やブログが沢山出てきてる現在でも皮肉ながら 衰えていないと思われます。 事実、玄米菜食や伝統食など非科学的なものが広まっているのはその最たる例で、現代人は野菜か果物は善玉、 肉や魚は悪玉扱いが大半ですので、、、、。
・・・そうなんでうよねえ。
玄米信仰みたいな、野菜と玄米以外は食べちゃダメみたいな宗教みたいな話の本、多いですよね。
科学的に考えれば、それが人間にとってどれほど偏った食事であるのかわかるはずなのに。
個人的に残念なのは、私、時代小説が結構好きで読むんですけど、それに出てくる主人公たちが和食、それもおかゆと梅干だけでいいみたいな栄養摂取でスーパーヒーローとして描かれていて、それに対抗する悪者が鶏肉と卵と山菜しか食べない野蛮人、見たいに描かれていることですね。
どっちかと言われたら絶対的に後者の方が健康で強いはずなんです。
で、そのスーパーヒーローは断食や滝修行でご先祖様や過去の偉人と対話できる境地になるとして描かれていたりします。
そっかあ、悟りの境地ってのはそうか、糖質摂取ばかりしている人が断食して低血糖状態になった時に見える妄想のことなのか、とか私は思ったりして(笑)