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われわれは植物の恐るべき戦略に踊らされている


長い妄想ですが、お暇でしたら(笑)。




生命はなぜ存在するのか、そして生命はなぜ自らの次世代を作ろうとするのか?

この問いかけに対する答えの一つとして提示されたのが「利己的遺伝子」という概念です。

遺伝子は、自らを存続させることを究極の目標とし、そのために「生命体」という乗り物を用意したというわけです。


オスとメスがいて、生殖によって遺伝子を交雑させるのも、一部でもいいから自分の遺伝子を後世に長くつなぐためです。

交雑による新たな機能獲得が生命体に新たな能力を与えます。

もしそれが新しく訪れた環境に適応すれば、その遺伝子系列はより高い確率で子孫という乗り物に伝わっていきます。



利己的な遺伝子 (科学選書)


・・・というのはあくまでもドーキンスの衝撃の著「利己的遺伝子(The Selfish Gene)」に従ったものの考え方です。

ですが、生物が生きていく本質を考えたときにはけっこう納得させられるものの見方で、私は好きです。

そして、この「利己的遺伝子」を前提として考えたときに、我々が糖質を好んで食べて糖尿病になってしまった理由に思い当たりました。


800px-Strelitzia_larger.jpg

それは、植物が自分たちの遺伝子を残していこうという戦略、その高度な技に、我々人類の祖先がまんまと乗せられたからだ、ということです。





われわれは糖質の甘い味が大好きです。

これは出生後の刷り込みでもなんでもなくて、生まれついて大好きです。


産婦人科では出生後、新生児の血糖値をチェックして(低血糖になる可能性の高い新生児は必ず)、低血糖になっている場合に少量のブドウ糖を経口投与します。

この時に赤ちゃんが見せる行動には驚くものがあります。

白湯をスポイトで口に当ててもたいして反応しないのに、ブドウ糖溶液を含ませると、大急ぎで口を動かして懸命にそれを飲み込みます。

生まれつき、糖質の甘い味が大好きなのです。


800px-Мышь_2.jpg
これは犬やネズミ、馬などに甘いものを与えてもよくわかります。

彼らも、角砂糖、大好きですよね、我々哺乳類の多くは糖質の甘い味を好むのです。


でもなぜ、我々は糖質の甘い味を好きなのでしょうか?

おそらくそれは、エネルギー源として非常に優れているからです。


我々の脳神経や赤血球は日常的に糖質を栄養分として使用しています。

もちろん、タンパク質を分解したアミノ酸を原料として、脂肪をエネルギーとして「糖新生」することができるので、糖質を食事から摂取しなくても何の問題もありません。

でも、それを食事から摂取できれば、「消化」や「糖新生」というステップを全部すっ飛ばせますから、ものすごくコストダウン化が図れるわけです。


飢餓が当たり前の厳しい野生環境では、食料を摂取したらいつでもそれをすみやかに体脂肪に変換して身体に蓄える方が安全です。

食物が豊富な環境であっても、冬の前に身体にエネルギーを蓄えたいときには、できるだけエネルギーを消費せずに「体脂肪」を増やす必要があります。

そのようなときに、消化しなくて良くてすぐに体脂肪に変換できる、コストパフォーマンスに優れた「糖質」を摂取するのはとても効率のいいことですよね。


いつ、どこで糖質と出遭っても、「発見したらそれをすかさず手に入れること」は生存競争で勝ち抜く上でとても重要です。

メタルスライムに出遭うようなもんですね。

だから、我々はその貴重なチャンスを取り逃さないために「糖質の甘い味」にものすごく心惹かれる味覚をもつに至っているわけです。

すぐ甘みがわかる砂糖や果糖はもちろんのこと、ちょっと噛むだけで麦芽糖ができて甘みを感じることのできるご飯やパンも大好きです。



ベルギーの牧草地のひなげしとヤグルマギク、そのはるかにまとめられた牧草.jpg

さて、次に、その「甘い糖質」を提供している生き物がなんであるのかを考えてみましょう。

なんでしょうか?

植物ですよね。


植物はどうやってその甘い糖質を我々に提供してくれるのでしょうか?

そしてそれはなんのためですか?


果実として、あるいは花の根元のごく僅かな花の蜜として、植物たちあま~い糖質を提供してくれています。

どうして彼らがそんな甘味を提供するのかと言えば、彼ら自身の種の保存、言い換えれば遺伝子を次の世代につないでいくためです。


花の蜜はミツバチや蝶々などの蜜を食べる昆虫を呼び、彼らが花粉を運んでくれることで、遠く離れた自分の仲間と交配するチャンスが得られます。

遠くにいる同属の花は、そばにいる同属の花に比べれば、自分の遺伝子とは大きく異なっている可能性が高いですよね。

交配により多様性が生まれて、より多くの機能を獲得できるチャンスが生まれます。

だから花は蜜を作って、虫に花粉を運ばせるのです。


では、果実はどうでしょうか?

これは皆さんよくお分かりです、果実は種を含んでいます。

甘い糖質を含んだ果実を動物が食べて、あるいは持ち去って、その植物のあった場所から遠く離れたところでその種を落とします。

果実の食べ残しでも、ふんの中に生き延びた種でもどちらでもいいでしょう。


これにより、その植物はより広範囲に自分の直接の子孫を残すことができます。

その子孫たちは遠く離れた場所で花を開いて、その地でもっと遠くから来た昆虫たちの運んできた花粉で新しい子孫を作れるわけです。

このような植物のライフサイクルに合致したライフスタイルを持つ動物によって、植物は生息範囲を広げ、種の多様性を深めて遺伝子を残していくことができるわけです。



714px-Honey_Bee_takes_Nectar.JPG

ふむふむ、花粉と果物の話、それを好む虫と動物の話はわかった。

ここまではでも、人類だけでなく、昆虫も動物も植物に騙されて、でも糖質という美味しい栄養を受け取って生きているから持ちつ持たれつなんじゃないの?

そうとも考えられます。


でも、1万年ほど前に、人類はある種の植物の仕掛けた遠大な計画にまんまとはめられたのです。

それは、アワ、ヒエ、オオムギ、コムギ、イネ、トウモロコシなどの「穀物」がとった戦略です。


かれらの種実には食べてすぐに甘いと感じられるような二糖類や単糖類は含まれていませんでした。

でも、噛んだり、消化管で分解されることで甘味の感じる、あるいはブドウ糖として効率よく吸収できるでんぷん質がぎっしり詰まっていました。

げっ歯類などのそれを主食として好む動物が現れて、それを食べるようになります。

それらは「種胚」そのものの栄養素であり、本来であればそれを食べられてしまうと次の世代に子供を残すことはできません。


ここで、ひとつの房にたくさんの実をつけておく「穂」を作るという戦略を彼らは取ります。

種実の実った「穂」ごと持ち運ばれれば、運よく食べ残された種から次の世代が生まれてくることができます。

それだけではなくてその性質により、「一粒の麦もし死なずば」、たくさんの種実をつけた穀物が次の年に育ちますよね。

これによって、その次の年にも新しい土地で子孫をつないでいける可能性は高くなります。

穂を丸ごと運んで保管してくれるような動物が好んでくれれば、彼らの穀物保管場所から次の新しい命が芽吹くことだってできます。

(穀物もそうですが、堅果のドングリの樹の下にはリスが住んでいることが多いのもそういう理由ですね。)


この「穀物の提供するライフサイクル」に合致した新しいライフスタイルを、一万年ほど前、我々人類は選択しました。

これにより、それまでは狩猟採集生活で肉食中心だった人類は、穀物を主食の一つとして選ぶようになってきたわけです。

それどころか、その穀物たちを栽培してどんどん増やして、安定的に「糖質」エネルギーを手に入れようとする「農耕」生活を始めます。


水田の風景.jpg

穀物を乗り物としている遺伝子の立場からしたら「してやったり。」ですよね。

人間たちが、自分たちの子孫を大事に大事に増やして育ててくれます。

茎や葉っぱを食べて種を滅ぼしてしまう害虫も追っ払ってくれますし、日照りの時には川から水を引いて干からびないように世話してくれます。

そして、種子の多くは食べられてしまうけれども、一部は確実に次の年の種もみとして大事に保管されるわけです。


つまり、花に虫を集め、果実で動物に種を運ばせるという、他の多くの植物がとった戦略とは異なり、穀物たちの利己的な遺伝子は、地球上でもっとも繁栄した種族である「人類」という「僕(しもべ)」を得ることに成功しました。

そして地球上でもっとも繁栄した植物の一つとして、彼らの遺伝子を効率よく遠い未来まで残していくことにも成功したのです。





げっ歯類のように数千万年かけて穀物食に対応した生き物とは異なり、人類は穀物を食べるライフスタイルに実は体が対応できていませんでした。

糖質をたまに食べることはOKでも、毎日食べるのは人類の膵臓や肝臓にはかなり厳しい負担になるのです。

それなのに現代では、様々な要因で糖質摂取量が相対的に増え、寿命も延びてきたために、慢性的な糖質摂取過剰による「肥満」と「高血糖」に苦しむことになったのです。

それが糖尿病の本質なんです。


でも、それは穀物(の利己的遺伝子)の側からしたら知ったこっちゃありませんよね。

「お前らの健康なんかどうでもいいから、ちゃんとわれわれの遺伝子が生き延びるようにしっかりと稲穂を回収して、種もみの世話をするのだぞ。」

穀物がそう言っているような妄想を、台風でへしゃげてしまった稲田の手入れを懸命にしている農家の人たちのニュースを見ていて思い浮かびました。


農家の人たちだけをしもべだと揶揄しているわけではなくて、

「我々人類全体が、穀物という植物たちの戦略にまんまと踊らされている」

のだな、と妄想したわけです。




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「穀物たちの遺伝子の戦略の結果の糖尿病」になんか、絶対なってやるもんか、と、私は今日も糖質制限するのであります(笑)。



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2012年10月 6日 22:32

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コメント(20)

まんまとその策略に嵌ってしまった・・・(-_-;)

いやぁ~明日から4日間お米の収穫なんです(爆)
もち米・うるち米(ひのひかり)・黒米・・・でもここ4か月くらいはおうちでお米炊いてないよ(笑)

 1か月前から、ブログを読ませていただいています。
とても参考になります。
 今回の「食物の戦略」は、もしかするとあたっているかも知れませんね。
 なぜ穀物はこんなに、糖質が多いのか?
私は2型糖尿病で、現在、空腹時血糖80~100 HbA1c(JDS)
5.9ですが、試しにご飯を一膳食べると、血糖が200をこえます。
 人類が穀物と出会ったのは、ラッキーだったかも知れませんが、欲望を抑えられないために糖尿病になったのかも。
 「過ぎたるは及ばざるが如し」「腹八分目医者いらず」
 アメリカは、10数年後に肥満人口が4割を超える勢いで増えているとか。人類は、真摯に自分たちの生活を見直さなければいけないのでしょうね。

ドクターカルピンチョ先生:

以前、糖尿性網膜症についてお尋ねしたものです。
その節はありがとうございました。

さて今回の「植物陰謀説(勝手に命名しました)」ですが、納得すること多々です。

素人考えですが、この陰謀にはアミラーゼも加担!しているのではないか、と思いますがいかがでしょう?

幸運にも口にできた炭水化物を噛み砕くことで「甘~く」感じさせ、より早く・沢山脂肪に変換して飢餓に備える。言わば甘い罠!!(それとも神の仕業と言うべきか)?

まぁ、摂り過ぎれば糖尿性になる訳ですが、良くできたシステムだと感心してしまいます。

ぜひアミラーゼについての先生のお考えをお聞かせ下さい。よろしくお願い致します。

「穀物たちの遺伝子の戦略の結果の糖尿病」とはいかがなものか?
 植物たちは他の生物たちと自然な共生を営んでいるだけなのではないでしょうか?
 人間だけが自己利益のために生物多様性の自然を破壊し、食物連鎖の餌になることを拒み害獣といっては絶滅種を増やしていく…
 限りある太陽からのエネルギーを無駄にしているのも人間だけ…更には無駄の廃棄のためにもエネルギーを消費するという馬鹿さ加減です。
 糖尿病はそんな人間のエゴが当たり前の習慣になってしまった結果生まれた病気でしょう。自らのDNAが要求している食物以外を摂り続けているのは人間と家畜くらいでしょうから…
 自身の愚かさを穀物に転嫁するのは考えて欲しいものです。なぜなら、その穀物が無ければ私も含めここに生を受けていない人間もたくさん居るはずなのですから。そして今常識となっている人間の生活そのものもです。

現代のライフスタイルが植物の戦略なのですか?

人間を糖尿病にして植物には何のメリットが想像できるのでしょうか?

穀物の戦略などという言葉を使うのが愚かだということです。

糖尿病に対しての糖質制限を批判する気は全くありませんが…
ご理解いただける器ではないようですね

穀物の戦略。。。多方面からいろいろ考えるとこういう一つの視点もあって、そうだと仮定してそこから思考をどんどん広げていくとこういう面白い見方もできますねってことで楽しかったですよ。
そういう面白い視点と発想の幅の広いところがこのブログの魅力だなぁって思います。
人間も動物も植物もみんなちゃんと生きてるわけだから、それぞれにいろんな考えを持って生きる為にいろいろ考えてるんだなぁって思うと人間も動物も植物もみんなとっても愛おしいなって思います。

いま「銃・病原菌・鉄」という文庫を読んでいます。

一万年前の農耕の起源について詳しく書いてあり「(乾季の後の)雨季に発芽しすぐに収穫でき保存もできる穀類は、(品種改良がしやすく)人類にとって都合のいい植物だった」という旨の記載がありました。

タイミングよく(?)夏井先生が「自滅する人類」の書評を書いておられますが、穀類も人類も同じ「家訓」を実践していると考えれば、カルピンチョ先生がおっしゃるように「穀類が人類にとって都合のいい植物なのではなく、穀類にとって都合のいい人類」だったのだと思いました。

お返事いただいたようですが表示されません。
わたしのPCがおかしいのでしょうか?

カルビンチョ先生
はじめまして
50歳代前半のメタボおやじのぺんぎんといいます

いのちとは何か?

人とは何か?

そんなことを考えさせられる、先生のブログ記事、特にこの
「・・・植物の恐るべき戦略・・・」
の記事は大好きで何回も読まさせていただいています

昨年の秋口まで、江部先生の著書に出会うまでは、
メタボおやじを作っているのは、カロリーであり、
特に、脂質が一番いけないのだろうなあ、と思っており
ました

まさか、糖質だけが、あの義弟の作るうまいお米(嫁さんの実家が稲作農家なんです)が一番の悪役であったとは・・・

カルビンチョ先生も、江部先生も、その論旨は明快であり、
科学的な説明、とはこういうものを指すのであろうと思っています

そして、検証も簡単であり、糖質制限食を実践すると、数日程度でその効果が確認できます
(私はある事情により、夜間の糖新生がブロックされて
いるため、若干効果は薄れているのですが・・・笑)

カルビンチョ先生、これからも記事を楽しみにしています
よろしくお願いします

管理人様


私も強く同感で、これまでは人を穀物が支えてきたように
思っておりましたが、今振り返ればむしろ穀物が
人を利用してきたのが真実だと睨んでおります。


同時に、確かに穀物は人口を増やして文明を気づいてきたのは
純粋に感謝しているものの一方で戦争や格差競争、飢饉
、そして糖尿病やうつ病など弊害をそれ以上に
たたき出しているのを見ると、非難する方には悪いですが
穀物を褒める事は基本できませんね。


事実、糖質の嗜好性に関する貴重な考察で思ったのですが、
糖質の影響は人に限らず他の動物(猫にマタタビなど)でも
共通している事から、もし人以外の動物が穀物を口にしていたらライオンや牛ばかりの地球になっていたかもしれませんから、、、。

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