核を捨てた哺乳類の脳の進化はブドウ糖が支えてくれた
我々の体にはブドウ糖しかエネルギーとして利用できない細胞や器官があります。
それは、赤血球と脳(部分的に)です。
これらの存在がしばしば、糖質制限に反対する人々の主張の根拠として提示されますよね。
我々の血管の中を流れる赤血球には核がありません。
核がないだけでなく、ミトコンドリアなどの細胞内小器官も失っています。
このために赤血球は脂質やケトン体をエネルギーとして利用できません。
赤血球はエネルギーをブドウ糖に頼るしかないのです。
その一方で我々の脳は、ブドウ糖だけでなくケトン体も利用できます。
飢餓時にはケトン体で必要なエネルギーの70%を補います。
それでも、30%程度はブドウ糖を使っていて、糖新生によるブドウ糖の一定量の供給は欠かせません。
ブドウ糖をたくさん使う脳は、エネルギーのすべてをケトン体に頼ることはできないのです。
このように赤血球と脳はブドウ糖を常に必要としています。
もちろんそれは、糖新生だけで補える量であり、糖質をまったく食べない断糖食であっても栄養は必要にして十分です。
ですが、それでも完全にケトン体システムに置き換えることはできません。
数百万年間も狩猟採集生活で、ケトン体中心の食生活であったはずの我々人類が、どうしてそんなシステムを選んだのでしょうか?
実は、話は哺乳類の進化にまでさかのぼります。
人間だけではなく、哺乳類であればネズミであれ、ネコであれ赤血球には核がありません。
原始哺乳類から別れて進化した有袋類のカンガルーやコアラも無核赤血球です。
これに対して鳥類以下の生物では赤血球は有核です。
これはカエルの赤血球の画像です、縮尺は上に上げた人の赤血球と同じですから、かなり大きいのがわかります。
つまり、ブドウ糖を必須の栄養素とする赤血球を持っているのは哺乳類全般に及ぶ話であり、人間だけの話ではないのです。
鳥類や爬虫類のようにケトン体とブドウ糖のどちらでもいい有核赤血球ではなくて、ブドウ糖にだけ頼る無核赤血球を哺乳類は選択したのです。
どうして赤血球の無核化を哺乳類は選択したのでしょうか?
無核赤血球は核がない細胞膜だけの構造なので形を変えることが容易になります。
へしゃげた構造をとることもできるし、長く伸びることもでき、そうなると赤血球の直系よりもはるかに細い血管を通ることができます。
つまり、哺乳類ではより細い毛細血管網を張り巡らせて、細部にまで赤血球を送りこみ、酸素を隅々まで行きわたらせることができるのです。
哺乳類が哺乳類として進化する際に、そのような酸素要求性の高い器官を作る必要性があったということですね。
言い換えれば、鳥類や恐竜との共通祖先から原始哺乳類が発生する際に、哺乳類は無核赤血球を選択する必要性があったということになります。
あえてケトン体と糖質のハイブリッドエンジンを捨てて、糖質エンジンだけを利用する無核赤血球を使うようにする必要性があったのです。
体の中でほかの臓器よりも多くの酸素をその隅々まで要求する器官はどこでしょうか?
脳です。
・・・なんだか見えてきましたね?(^◇^)
ここで、原始哺乳類がどのような生物であったのかについて考えてみます。
原始哺乳類は現代で言えばトガリネズミやモグラに近い生物で、生活も夜行性もしくは地下の穴倉生活が主だったと考えられています。
巨大で敏捷な恐竜や、空を飛ぶ視力の良い鳥たちから逃れて生活するためにはそうするしかなかったのです。
そして、哺乳類はその名前のとおりに子供をお腹の中で育てるという選択肢を取りました。
外気温にさらされる卵と異なり、胎生であれば気候変動には強いはずで、気候変動で滅ぶ可能性は低くなります。
ただし、未熟な状態で小さく生んで授乳しながら育てる必要があります。
地下や夜といった暗闇で生活するために、視覚以外の感覚が発達します。
闇の中での授乳行動は母子関係がきちんと認識されなければ成立しません。
このために哺乳類の場合に特によく発達したのが嗅覚です。
これは母乳(乳首)を探す行動を考えてもらうとわかります。
猫や犬を飼ったことがあり、そのペットが子供を生んだことがある人は良くわかると思いいます。
生まれたての犬や猫は目が開いていません。
耳もふさがっている種類が多いです。
でも、彼らはお母さんの乳首を探して這いまわり、しっかりと探しあてて吸引します。
嗅覚がカギを握る行動のように見えます。
これは乳腺がもともとアポクリン腺という脂質を多く含む汗腺と同じ器官から発生したことを考えても合理的ですね。
甘いミルクの臭いを目の見えぬ子供たちは嗅ぎ当てることができるのです。
ということは
原始哺乳類の進化の段階で、嗅覚に関する脳の機能がものすごく発達した時期があったのではないか?
ということを想起させます。
実際にこれは化石のCTスキャンでの研究によって確認されています。
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Fossil Evidence on Origin of the Mammalian Brain
Timothy B. Rowe1,*, Thomas E. Macrini2, Zhe-Xi Luo3
Science 20 May 2011:
Vol. 332, Issue 6032, pp. 955-957
http://science.sciencemag.org/content/332/6032/955
Abstract
Many hypotheses have been postulated regarding the early evolution of the mammalian brain. Here, x-ray tomography of the Early Jurassic mammaliaforms Morganucodon and Hadrocodium sheds light on this history. We found that relative brain size expanded to mammalian levels, with enlarged olfactory bulbs, neocortex, olfactory (pyriform) cortex, and cerebellum, in two evolutionary pulses. The initial pulse was probably driven by increased resolution in olfaction and improvements in tactile sensitivity (from body hair) and neuromuscular coordination. A second pulse of olfactory enhancement then enlarged the brain to mammalian levels. The origin of crown Mammalia saw a third pulse of olfactory enhancement, with ossified ethmoid turbinals supporting an expansive olfactory epithelium in the nasal cavity, allowing full expression of a huge odorant receptor genome.
この文献中に出てくる原始哺乳類の一つ、Morganuocodonの想像図が同じサイエンスのレビュー記事の中に示されています。
小さいですねえ。。。
Science : Sniff Sniff: Smelling Led to Smarter Mammals
19 May 2011
Nadia Ramlagan
https://www.aaas.org/news/science-sniff-sniff-smelling-led-smarter-mammals
今回の知見は、哺乳類がどうしてこのように大きく複雑な脳(場合によっては体の大き
さとの釣合からみて10倍も大きい)を発達させたのかを説明する助けとなる。ジュラ紀
初期の2種類の哺乳類、MorganuocodonとHadrocodiumの化石を画像的に再構成したところ、哺乳類の脳が3つの段階を経て進化したことが明らかになった。第1段階は嗅覚の発達、第2段階は体毛が関与した触覚の発達、第3段階は神経筋協調性すなわち感覚を用いて高度な筋運動を行う能力の発達である。
この研究は、医療用画像撮影法であるX線コンピュータ断層撮影(CT)を用いて、中国で発見された1億9千万年前のMorganuocodonとHadrocodiumの化石から頭蓋内腔を再構成した。このトガリネズミに似た小さな生物は、現存の哺乳類の祖先と考えられている。頭蓋内腔は、脳が占めている空間を表す。この研究で用いられた頭蓋内腔は化石化によって自然に残されたものである。
3次元画像によって、Rowらは化石として残された生物の脳と鼻腔を内側から拡大して調べることができた。その結果、原始哺乳類では鼻腔および関連する嗅覚の領域と、嗅覚をつかさどる脳の領域が拡大していることがわかった。これらは、原始哺乳類における嗅覚の発達を示すものである。
原始哺乳類の頭蓋内腔を、犬歯類(cynodont)と呼ばれる原始爬虫類などの他の種類の
化石と比べてみると、MorganuocodonとHadrocodiumの脳は50%近く大きいことがわかっ
た。これらの結果を総合すると、嗅覚を中心にして感覚世界を利用する能力により、初
期の哺乳類は、そのもっとも近縁の種と比べてもきわめて大きな変化を遂げたというこ
とになりそうである。
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哺乳類が出現した時にはその生活スタイルへの適応のために、嗅覚などの感覚を処理する大脳の新皮質の複雑性が一期に進む必要性があったと考えられます(体毛による触感の発達も重要です、それについては上の論文を参照してください)。
しかも、この原始哺乳類のサイズを見てください。
クリップ程度の大きさしかありません。
脳を大きくするといっても限界があったはずです。
脳を大きくできないならば、その中の回路をより小さくして精密に詰め込めばいい。
その精密な脳を成立させる手段として、無核赤血球が選ばれたのです。
小さな体で脳の高次機能を獲得するために、原始哺乳類は脳の中に細い毛細血管を張り巡らしてそこに柔軟に形の変化する無核赤血球を通すことを選んだのです。
さて、ここで問題が発生します。
ブドウ糖しかエネルギーにできない無核赤血球の機能を保つためにはブドウ糖の濃度が常に一定以上である必要があります。
血糖値の設定範囲が鳥類以下の生物に比べると狭くならざるを得ません。
ファインチューニングが必要不可欠になります。
このために哺乳類は血糖値を安定的に保つホルモンシステムを備えます。
グルカゴンなどの血糖を上げる複数のホルモンシステムと、インスリンという血糖を下げる単一のホルモンシステムです。
(これらのバランスが崩れると体調不良に陥るのはみなさまご存知の通りですね。)
膵臓の内分泌器官としての重要性が哺乳類ではどんどん上がってきたわけです。
そしてもう一つ備えた行動は、糖質を積極的に食べようとする行動様式です。
哺乳類のほとんどは糖の甘い味が大好きです(乳児期であれば肉食の子でも)。
植物が果実や花の蜜として提供してくれる糖類の甘い味、人間を含むほとんどの哺乳類は大好きです。
だって、自分の体内で糖新生せずに簡単に血糖を上げてくれる食べ物ですし、脳の活動のためにはなくてはならないブドウ糖もしくは簡単にブドウ糖に換わる食べ物なのですから、糖は極めて効率の良いラッキー食材です。
運よく糖質含有量の高い食べ物に出会ったら必ず食べるように、甘い味を味わったら快感がほとばしるようなセッティングがなされたのです。
これは哺乳類が原始哺乳類として発生したときに赤血球の無核化を選んだときからすでに決まっていたことで。
我々が糖質を食べることに快感を見出すのも、哺乳類としてはリーズナブルなことなのです。
糖質、甘味に魅せられる人が多いのは仕方がないことであるとも言えます。
最後に、このブログの読者に対しては釈迦に説法で繰り返しですが、重要なことを一つ書きます。
原始哺乳類が生まれた時に、糖質はめったに手に入らないラッキー食材でした。
そして人類にとっても、(石器時代の数百万年の間)糖質はめったに手に入らないラッキー食材でした。
めったに手に入らないからこそ、手に入れた時には残さず摂取するように食べると脳からβエンドルフィンがほとばしるようになったのです。
でも今、この人類の文明社会に糖質はあふれかえっています。
毎日浴びるように糖質を飲み食いすることが可能ですし、そうしている人もたくさんいます。
しかし、我々の体は、このような時代が来ることを想定しては作られてはいません。
甘味を食べたら脳で快感がほとばしる設定が有益なのは糖質がめったに出会えない時代であったからこそです。
現代は糖質が溢れかえっています。
年に一度出会えるか出会えないかだった高糖質食品を毎日、一日三回食べることができます。
普通に生活していれば、確実に糖質摂取過剰になります。
だから肥満体と2型糖尿病が先進諸国にはあふれかえっているのです。
糖質の食べ過ぎ、甘い味に依存しすぎているからこそ、体の不調を起こす人がすごくたくさんいるのです。
糖質制限はそこから離脱するための第一歩である。
このことは心にとめて置いていただきたいです。
先生様
いつもありがとうございます。
胃潰瘍はの罹患は2度目なので、(壱回目の時は、糖質制限してませんでしたので、いわゆる「胃に優しい食事で乗り切りました」)
今回もと思量しましたが、やってみてびっくり・・・。体調不良と
(特にだるさと睡魔及びなぜか足が無性につります。糖質摂取で足つり、なんてありうるのでしょうか・・・糖質制限で足釣りは、よく聞くことなので、戸惑っております。)空腹感。
タケキャブ処方のため、胃散は抑制されてるかとは思量しますが、前回の時と比べで味覚の変化が大きいらしく、肉、脂質がほしくてほしくて・・・。
ココナツオイル、バターを白湯に溶かして(コーヒーに溶かせないのがつらいです)、プロティンパウダーとベーキングパウダーで蒸しパン作って、職場に持って行ってます。かなり自由な職場なのでちょびちょび食べも可能なのでありがたいです。
ところで、「ドクターMのブログ」の「疑似ケトン体値上昇」、で、「システィン剤」「シリマリン」等で、擬似的にケトン値が上昇するとの記載があっのですが、たしかSH基とかいうもののせいらしいですが、わけあって、上記サプリ飲んでます。
ってことは、私はケトン体質にならない、または、なりにくい、ってことでしょうか・・。上記ブログから回答が得られなかったので、すいません、おすがりするのは先生だけです。。
いつもすいません、よろしくお願い申し上げます。
>きりこさん
今回の記事、全く読んでないで最新の記事だからコメント欄にコメント書いてるでしょ?
ほかの読者はこの記事にこのようなコメントがあることを理解できないということ、想像していただけませんか?
また、この記事の内容に対するコメントがあることを投稿した私も期待しているということにご配慮ください。
また、質問内容も要領を得ません。
私に「ドクターMのブログ」を読みに行かせて、それを解読して説明してもらおう、
自分が何を聴きたいかも適度に書いてあとは推し量ってもらおう、
と考えてらっしゃるように思えます。
もう少し要点を絞って簡潔な質問を、質問するのに適していると思える場所に書いてください。
追加
これは別の記事でのコメントでのやり取りしていた内容の続きですし(そこでも記事内容には無関係でしたが)、その場所で「ドクターMのブログ」のリンクを紹介してくれたのはカイゴロンさんであり、私ではありません。
それらを踏まえて適所に配慮のある投稿してほしかった、ということです。
先生様
申し訳ありませんでした。
もう、お邪魔いたしません。
いろいろご指南ありがございました。
皆様のご多幸をお祈り申し上げます。